病原性のプトレシン

Pathogenic putrescine

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
13 Sep 2022 Vol 15, Issue 751
DOI: 10.1126/scisignal.ade8161

WEI WONG

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org

Y. H. Ju, M. Bhalla, S. J. Hyeon, J. E. Oh, S. Yoo, U. Chae, J. Kwon, W. Koh, J. Lim, Y. M. Park, J. Lee, I.-J. Cho, H. Lee, H. Ryu, C. J. Lee, Astrocytic urea cycle detoxifies Aβ-derived ammonia while impairing memory in Alzheimer's disease. Cell Metab. 34, 1104-1120.e8 (2022).

A. K. Frame, R. C. Cumming, Using the urea cycle to shift astrocytes from harmful to helpful in Alzheimer's disease. Cell Metab. 34, 1079-1081 (2022).

アストロサイトにおけるプトレシンを生成する尿素代謝が、アルツハイマー病の記憶障害につながる。

アルツハイマー病はアストロサイトを反応性に変え、より多くのγ-アミノ酪酸(GABA)を放出させる。GABAは、その持続性放出によりアルツハイマー病マウスモデルで記憶を障害する神経伝達物質である。アストロサイトにおいて、GABAは、酵素のモノアミン酸化酵素B(MAO-B)によってプトレシンから生成され、プトレシンは、アンモニアから尿素への解毒過程で生成されるアルギニンとオルニチンから合成される。Juらは、β-アミロイドが、アストロサイトにおけるアンモニアの解毒を通常の直線的な経路から、アンモニアを再合成する正のフィードフォワードループに切り替え、尿素、プトレシンおよびGABAの生成を増強させることを見出した(FrameとCummingも参照)。対照者の海馬アストロサイトと比較して、アルツハイマー病患者の海馬アストロサイトでは、プトレシン生成の上流にある酵素、とくにARG1(アルギニンからオルニチンへの変換において尿素を生成する)およびODC1(オルニチンをプトレシンに変換する)をコードする遺伝子の発現が高かった。β-アミロイドで処理したアストロサイトでは、shRNAを介するARG1またはODC1ノックダウンによって、プトレシン生成とGABA放出が低下した。β-アミロイド処理アストロサイトにおいて生成されたアンモニアは、オートファジー分解(おそらくβ-アミロイドの分解)またはMAO-Bによるプトレシンの分解に由来し、ARG1またはODC1の薬理学的阻害によって、アンモニア蓄積が軽減された。培養アストロサイト内の尿素濃度は、アルギニン補充またはβ-アミロイド処理によって増加し、これらの増加は、それぞれARG1またはODC1の阻害によってさらに増強された。尿素濃度は、アルツハイマー病モデルマウスの歯状回において対照マウスの歯状回と比べて高く、ARG1阻害によって低下したが、ODC1阻害によっては低下しなかった。薬理学的阻害後にin vitroおよびin vivoで測定された尿素濃度から、ARG1は尿素生成に不可欠な酵素であり、ODC1活性がアンモニアの解毒を阻害することが示唆された。アルツハイマー病モデルマウスでARG1またはODC1をノックダウンすると、アストロサイト内のGABAおよびプトレシン量が低下し、反応性アストロサイトの数が減り、GABAに関連した電気生理学的異常が減少し、記憶障害が軽減した。しかし、ODC1ノックダウンのみが、α-セクレターゼ(非アミロイド形成切断を促進)をコードする遺伝子の発現増加およびβ-アミロイド斑の縮小をもたらした。このように、β-アミロイドによってアストロサイトのアンモニア解毒経路が切り替えられると、アルツハイマー病病態を促進する代謝物が生成される。したがって、この経路の特定の酵素を阻害することにより、記憶障害が回復し、β-アミロイド斑の大きさが縮小する可能性がある。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2022年9月13日号

Editor's Choice

病原性のプトレシン

Research Article

胎児マクロファージが上皮間葉転換の誘導を通じて羊膜破裂の修復を助ける

腸刷子縁の形成にはTMIGD1ベースの微絨毛間接着複合体が必要である

最新のEditor's Choice記事

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける

2024年3月19日号

痒みを分極化する

2024年3月12日号

抗体の脂肪への蓄積による老化