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褐色脂肪を褐色に保つ
Keeping brown fat brown
SCIENCE SIGNALING
20 Dec 2022 Vol 15, Issue 765
DOI: 10.1126/scisignal.adg3025
Amy E. Baek
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: abaek@aaas.org
K. Qian, M. J. Tol, J. Wu, L. F. Uchiyama, X. Xiao, L. Cui, A. H. Bedard, T. A. Weston, P. S. Rajendran, L. Vergnes, Y. Shimanaka, Y. Yin, Y. Jami-Alahmadi, W. Cohn, B. T. Bajar, C. H. Lin, B. Jin, L. A. DeNardo, D. L. Black, J. P. Whitelegge, J. A. Wohlschlegel, K. Reue, K. Shivkumar, F. J. Chen, S. G. Young, P. Li, P. Tontonoz, CLSTN3β enforces adipocyte multilocularity to facilitate lipid utilization. Nature (2022).
褐色脂肪組織の多胞性の表現型はER-脂肪滴アンカータンパク質により決定される
熱産生性の褐色脂肪組織(BAT)は、これに対応する単胞性の白色脂肪細胞と比べ小型の脂肪滴(LD)を複数含有していることを特徴とする。こうした構造が形成される機構は不明であるが、LDの融合は、白色脂肪細胞と褐色/ベージュ脂肪細胞のいずれにおいても細胞死誘導性DFFA様エフェクター(CIDE)タンパク質によって促進される。Qianらは、カドヘリンスーパーファミリーのメンバーであるカルシンテニン-3β(CLSTN3β)が、CIDEを介したLD融合を阻害することにより、BAT LDの多胞性の表現型を促進することを見いだした。Clstn3のオルタナティブな転写産物(Clstn3b)は、白色脂肪組織(WAT)よりもBATに多く含まれていた。前駆褐色脂肪細胞においてCLSTN3βは小胞体(ER)に局在化していたが、LDの刺激によってCLSTN3βはERとLDの境界面に動員された。領域欠失型変異体の解析から、CLSTN3βがLDに局在化するためには、CLSTN3βに特異的なN末端領域が必要であることが示された。さらに褐色脂肪細胞のインタラクトーム解析から、ER関連分解(ERAD)経路の構成要素が濃縮され、さらにこの経路の阻害によりCLSTN3β分解が抑制されることが明らかとなった。脂肪細胞特異的にCLSTN3βをノックアウトした(AdC3KO)マウスのBATは野生型(WT)マウスのBATと比べて大型、単胞性で色が薄く、トリグリセリドを多く含んでいた。また、全身性にCLSTN3βをノックアウトした(KO)マウスは、急性の低温負荷に対する感受性が増した。KOおよびAdC3KOマウスはいずれも、WTマウスと比較してBATの脂質沈着が増大していた。CLSTN3βを欠損する前駆脂肪細胞には大型のLDが認められたが、CLSTN3βの再発現によりLDの多胞性の表現型が回復し、脂肪トリグリセリドリパーゼおよびそのコアクチベーターCGI58の量が増加した。アデノ随伴ウイルス遺伝子発現ベクターを注入してAdC3KOマウスの脂肪細胞にCLSTN3βを発現させると、BATの多胞性の表現型が増強した。同様にWATにCLSTN3βを発現させたとき、多胞性の脂肪細胞が認められた。CLSTN3βはCIDEAおよびCIDECと共免疫沈降し、かつCLSTN3βの存在下では、CIDEを介した脂質輸送が阻害された。健康ドナーおよび褐色細胞腫(BATの活性化を伴う副腎腫瘍)患者から採取したヒト副腎周囲脂肪組織を用い、CLSTN3β特異的オープンリーディングフレーム(ORF)を標的とするRNAscope解析を行ったところ、CLSTN3β RNAは、褐色細胞腫患者の多胞性の脂肪のみで認められた。これらの知見は、BATに特徴的な多胞性の表現型及びその脂質の利用に重要な、ERとLDコンパートメントの接合部に存在するタンパク質を明らかにするものであり、BATの生理機能を理解するためのより大きな機構的基盤を提供するものである。