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腸脳軸にストレスを与える
Stressing the gut-brain axis
SCIENCE SIGNALING
2 May 2023 Vol 16, Issue 783
[DOI: 10.1126/scisignal.adi4514]
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: jfoley@aaas.org
X. Zhu, S. Sakamoto, C. Ishii, M. D. Smith, K. Ito, M. Obayashi, L. Unger, Y. Hasegawa, S. Kurokawa, T. Kishimoto, H. Li, S. Hatano, T.-H. Wang, Y. Yoshikai, S.-i. Kano, S. Fukuda, K. Sanada, P. A. Calabresi, A. Kamiya, Dectin-1 signaling on colonic γδ T cells promotes psychosocial stress responses. Nat. Immunol. 24, 625-636 (2023).
マウスにおいてストレス誘発性の腸内細菌叢の変化がγδ T細胞の髄膜への移動を引き起こし、髄膜でγδ T細胞が行動に影響を及ぼす。
慢性的なストレスは免疫因子や炎症因子を変化させ、その結果抑うつなどの様々な障害を引き起こす可能性がある。ストレスは腸内細菌叢にも影響を及ぼし、免疫系構成成分はストレス誘発性の行動変化を仲介することから、Zhuらは、マウスにおいてストレスが腸内免疫系に影響を及ぼし、行動を変化させる機構を検討した。著者らは、慢性社会的敗北ストレス(CSDS)モデルにおいて、感受性マウスと回復力のあるマウスとの間で腸内細菌叢の組成が異なることを見出した。CSDS感受性マウスではラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)の量が低下しており、これが社会的回避行動と相関した。16S rRNA遺伝子シークエンシングにより、うつ病/大うつ病性障害(MDD)患者の便検体中のラクトバチルス存在量が、抑うつの臨床スコアと逆相関することが示された。フローサイトメトリー分析により、CSDS感受性マウスの結腸では、回復力のあるマウスの結腸と比較して、IL-17産生γδ T(γδ17)細胞の数が増加していることが明らかになった。γδ17細胞は、マウスの腸内に存在する場合は炎症性腸疾患と関連し、髄膜に存在する場合は不安様行動の調節と関連する。CSDS感受性マウスの頭蓋切片の免疫組織化学分析により、髄膜のγδ17細胞数が同時に増加していることが示された。これらのCSDS誘発性のγδ17細胞の数と分布の変化は、ラクトバチルスの経口投与によって打ち消された。CSDSは、末梢γδ T細胞の髄膜への移動を誘導し、抗体を介してそれらの移動を阻害すると、社会的回避に対する回復力が促進された。γδ T細胞を欠損したマウスでは、CSDS誘発性の行動変化が認められなかった。感受性マウスの腸内では、CSDSによって、C型レクチン受容体であるデクチン1を発現するγδ T細胞の数が増加したが、回復力のあるマウスではそのような変化は認められなかった。デクチン1は、L. johnsoniiを介して分解される真菌細胞壁成分に応答する。デクチン1欠損マウスでは、CSDSに応答した結腸内のγδ T細胞数の増加や社会的行動の変化は認められなかった。養子細胞移植実験により、γδ T細胞におけるデクチン1の発現が、CSDS誘発性の社会的回避行動に必要であることが確認された。CSDS中のマウスに、抑うつの補完治療薬として用いられる真菌βグルカンであるパキマン(pachyman)を投与すると、結腸内のγδ17細胞数の増加が抑制され、社会的回避行動が改善した。総合すると、これらの結果は、心理社会的ストレス応答を仲介する腸内γδ T細胞の役割を強調し、デクチン1依存性のγδ17細胞分化が、抑うつなどのストレス関連障害の治療において標的となる可能性があることを示唆している。