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孤独なマウスではアストロサイトが抑制性に変化する

In lonely mice, astrocytes turn inhibitory

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
9 May 2023 Vol 16, Issue 784
[DOI: 10.1126/scisignal.adi5392]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

Y.-T. Cheng, J. Woo, E. Luna-Figueroa, E. Maleki, A. S. Harmanci, B. Deneen, Social deprivation induces astrocytic TRPA1-GABA suppression of hippocampal circuits. Neuron 111, 1301-1315.e5 (2023).

マウスにおける社会的剥奪はアストロサイトの役割を認知の促進から抑制に切り替える。

社会的剥奪は脳の発達と機能を変化させ、しばしば認知障害や心身の健康問題を引き起こす。これに関連した研究の大半は、解剖学的およびニューロンへの影響を中心にしている。Chengらは、アストロサイトと呼ばれる脳内の星状膠細胞も社会的剥奪の影響を受け、しかもそれが、関連ニューロンの欠損に直接寄与することを明らかにした。社会的孤立を経験した(ケージに単飼された)幼若マウスは対照(群飼された)マウスと比べ、認知関連行動試験の成績が低かった。これらの群のマウスの脳組織を分析したところ、社会的孤立を経験したマウスの海馬(脳の学習と記憶の中枢)のアストロサイトでは、Ca2+の存在量(アストロサイトの活性を示す)が多く、Ca2+チャネルTRPA1をコードする遺伝子および抑制性神経伝達物質GABAの産生酵素をコードする遺伝子の発現が亢進していた。社会的孤立を経験したマウスのアストロサイトでみられたこれらの変化は、海馬におけるGABA作動性持続性電流の増加およびシナプス可塑性指標の低下と一致していた。TRPA1の(遺伝学的または薬理学的な)阻害およびGABA合成モノアミン酸化酵素Bのノックダウンは、それぞれ海馬のアストロサイトに選択的に作用して、GABA電流を減少させ、社会的孤立に起因する認知障害を改善した。一方、群飼した(対照)マウスの海馬におけるモノアミン酸化酵素Bの過剰発現は、社会的孤立が及ぼす生理学的影響および認知機能への影響を再現した。ただし、TRPA1の欠失はモノアミン酸化酵素Bをコードする遺伝子の発現に影響せず、その逆もないことが示された。このことは、社会的剥奪に応じたアストロサイト活性の刺激とGABA産生の刺激という、並行する経路の存在を示唆している。特に、群飼したマウスではTRPA1が認知機能および興奮性神経伝達物質グルタミン酸の産生を促進していたことから、社会的剥奪は海馬内のアストロサイトの機能を、ニューロン活動の促進から抑制へと切り替えることがさらに示唆された。これらの知見は、社会的剥奪の影響に関して一層深い洞察を与え、神経学的機能におけるアストロサイトの重要な役割をあらためて浮き彫りにした。

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2023年5月9日号

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