がん免疫療法を強化する

cAMPing up cancer immunotherapy

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
20 Jun 2023 Vol 16, Issue 790
[DOI: 10.1126/scisignal.adj2198]

Amy E. Baek

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: abaek@aaas.org

J. Zhu, S. Naulaerts, L. Boudhan, M. Martin, L. Gatto, B. J. Van de Eynde, Tumour immune rejection triggered by activation of α2-adrenergic receptors. Nature, 618, 607-615 (2023).

さまざまな免疫適格腫瘍モデルにおいて、アドレナリン受容体刺激によりがん免疫療法が改善する。

免疫チェックポイント阻害(ICB)に基づく治療は臨床的に有益であるが、免疫抑制性の腫瘍微小環境がそれらの効果を弱める。そのような免疫抑制機構の1つには、β-アドレナリン受容体シグナル伝達によるアデニリルシクラーゼの活性化を介するcAMP産生の増加が関わっている。そこでZhuらは、さまざまな起源の腫瘍を有するマウスにおいて、アデニリルシクラーゼを阻害するα2-アドレナリン受容体(α2AR)の種々のアゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングすることによって、α2ARががんの進行に果たす役割を検討した。α2ARアゴニストは、ICB抵抗性のモデルを含むすべてのモデルにおいて生存期間を延長し、腫瘍増殖を抑制した。α2ARアゴニストにより刺激される抗腫瘍応答には、Tリンパ球の存在が必要であった。免疫不全NSGマウスにヒトがん細胞を移植した後、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)を注射して、ヒトリンパ球と免疫原性腫瘍の存在下で免疫抑制を評価するためのモデルを作製した。チェックポイント阻害剤PD1の腫瘍浸潤リンパ球における発現と、そのリガンドであるPD-L1の腫瘍微小環境の細胞における発現が増加した。α2ARアゴニストと免疫チェックポイント阻害剤の併用治療は、ICB抵抗性モデルも含めて、相乗的な抗腫瘍効果を示した。Adra2aノックアウトマウスにα2ARアゴニストを投与しても、Adra2aを発現する移植腫瘍の増殖は低下しなかったことから、α2ARアゴニストは、腫瘍細胞外因性にα2ARを介する抗腫瘍効果を刺激することが示唆された。抗腫瘍免疫応答のさらなる解析により、CD8+ T細胞は腫瘍増殖の抑制に必要であるが、十分ではないことが示された。MHC II表面発現と貪食能が亢進したマクロファージによる腫瘍浸潤が、野生型(WT)マウスで観察されたが、Adra2aノックアウトマウスでは認められなかった。マクロファージを枯渇させると、α2ARアゴニストであるクロニジン(CLD)の抗腫瘍効果が低下し、WTマクロファージをAdra2aノックアウトマウスに養子移植すると、CLDの抗腫瘍効果が回復した。α2ARアゴニストに曝露したマウスマクロファージは、未処理のマクロファージと比較して、CD4+およびCD8+ T細胞を刺激する能力が高かった。α2AR活性化によって低下するPKA活性が、CLD投与マウスの腫瘍およびリンパ節に由来する骨髄系細胞では低下していたが、Adra2aノックアウトマウスの骨髄系細胞では低下していなかった。総合すると、これらの結果は、α2ARアゴニストとがん免疫療法を併用するアプローチの可能性を示唆している。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2023年6月20日号

Editor's Choice

がん免疫療法を強化する

Research Article

ラミニン-1とIV型コラーゲンへの接着が、活性化に対するマウスT細胞の感受性を高めるCa2+マイクロドメインの形成を誘導する

lncRNA LETS1はTβR1安定化機構を転写的に活性化することによってTGF-β誘導性EMTとがん細胞遊走を促進する

最新のEditor's Choice記事

2024年4月30日号

裸のブレブが細胞を食細胞に曝露する

2024年4月23日号

グリアは睡眠のための原動力

2024年4月16日号

腫瘍を倒すには非定型インテグリンが必要である

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴