• ホーム
  • 副腎がんのエピジェネティックなスイッチを利用する

副腎がんのエピジェネティックなスイッチを利用する

Exploiting an epigenetic switch in adrenal cancer

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
18 Jul 2023 Vol 16, Issue 794
[DOI: 10.1126/scisignal.adj7203]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

D. R. Mohan, K. S. Borges, I. Finco, C. R. LaPensee, J. Rege, A. L. Solon, D. W. Little, T. Else, M. Q. Almeida, D. Dang, J. Haggerty-Skeans, A. A. Apfelbaum, M. Vinco, A. Wakamatsu, B. M. P. Mariani, L. C. Amorim, A. C. Latronico, B. B. Mendonca, M. C. N. Zerbini, E. R. Lawlor, R. Ohi, R. J. Auchus, W. E. Rainey, S. K. N. Marie, T. J. Giordano, S. Venneti, M. C. B. V. Fragoso, D. T. Breault, A. M. Lerario, G. D. Hammer, β-Catenin-driven differentiation is a tissue-specific epigenetic vulnerability in adrenal cancer. Cancer Res. 83, 2123-2141 (2023).

EZH2阻害剤が、攻撃的な副腎皮質がんの進行を遅らせる可能性がある。

「CIMP-high」副腎皮質がん(ACC)は、DNAメチル化の増加、Wnt-β-カテニンシグナル伝達の恒常的活性化、逆説的な分化を特徴とする。このがんは悪性度が高く、患者には治療選択肢が乏しい。Mohanらは、このがんのメチル化に関連するエピジェネティックプログラミングに治療上の脆弱性が存在するかどうかを検討した。CIMP-high ACCにおいて、高メチル化プロモーターを有する遺伝子は、大部分がクロマチン修飾酵素複合体PRC2の調節標的として確立されたものであった。PRC2は、ヒストンメチル化を介する転写を抑制することによって、細胞の多能性と分化を制御する。しかし、これらの遺伝子の発現は全体としては低下せず、複合体を阻害(そのサブユニットとヒストンメチルトランスフェラーゼEZH2を触媒的に阻害することによる)しても、プロモーター(DNA)メチル化は元に戻らなかったことから、これらの腫瘍における非定型的なエピジェネティックプログラムが示唆された。マルチオミクス解析により、正常な副腎組織と異なり、CIMP-high ACCではDNAメチル化とPRC2/EZH2関連ヒストンメチル化が基本的に相互排他的であることが明らかになった。それらの解析により、EZH2阻害剤が、Wnt-β-カテニンシグナル伝達のプログラムを含む、細胞分化を促進する中心的転写プログラムを阻害することも示された。EZH2は核内でβ-カテニンに結合し、その形式から、EZH2はβ-カテニンへの結合をクロマチンと競合することが示唆された。クロマチンに結合したβ-カテニンは、多くの場合、DNAのACC特異的な「スーパーエンハンサー」領域で分化促進因子SF1と複合体を形成していた。いまだ不明の機構を介して、EZH2の薬理学的阻害(ノックダウンではなく)により、培養ACC細胞においてSF1/β-カテニン複合体のスーパーエンハンサー領域への動員が障害され、細胞死が誘導された。ACCのマウスモデルおよび患者ACC検体では、EZH2発現の発生とβ-カテニン複合体の存在量に、ACCの発症および転移の進行との関連が認められ、EZH2阻害剤は、マウスにおいて腫瘍を脱分化させ、その増殖を遅らせた。これらの結果から、EZH2の阻害が、この攻撃的なACCの進行を遅らせる1つの方法である可能性が示唆される。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2023年7月18日号

Editor's Choice

副腎がんのエピジェネティックなスイッチを利用する

Research Article

ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のがんタンパク質CagAは、Wnt/PCPシグナル伝達を脱制御し、幽門腺底部で細胞増殖を異常亢進する

ERK2はキナーゼ活性に依存しない方法でCDK9をMYCプロモーターに固定することによりMYCの転写を刺激する

最新のEditor's Choice記事

2024年4月23日号

グリアは睡眠のための原動力

2024年4月16日号

腫瘍を倒すには非定型インテグリンが必要である

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける