β細胞の回復

Rescuing β cells

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
25 Jul 2023 Vol 16, Issue 795
[DOI: 10.1126/scisignal.adj8531]

Amy E. Baek

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: abaek@aaas.org

Y. T. Yeh, C. Sona, X. Yan, Y. Li, A. Pathak, M. I. McDermott, Z. Xie, L. Liu, A. Arunagiri, Y. Wang, A. Cazenave-Gassiot, A. Ghosh, F. von Meyenn, S. Kumarasamy, S. M. Najjar, S. Jia, M. R. Wenk, A. Traynor-Kaplan, P. Arvan, S. Barg, V. A. Bankaitis, M. N. Poy, Restoration of PITPNA in Type 2 diabetic human islets reverses pancreatic beta-cell dysfunction. Nat. Commun. 14, 4250 (2023).

膵β細胞不全の根底にはホスファチジルイノシトール転移タンパク質αの欠損がある。

2型糖尿病(T2D)の発症の根底には、インスリン産生細胞である膵β細胞数の減少がある。インスリンに対する需要が慢性的に増加すると、最終的にはβ細胞量が減少し、インスリン分泌が低下する。ホスホイノシチド代謝の変化は糖尿病など広範囲にわたる影響をもつ可能性がある。ホスファチジルイノシトール転移タンパク質(PITP)は、ホスファチジルイノシトールおよびその他のリン脂質を膜コンパートメント間で転移させ、小胞分泌の上流で機能している。Yehらは、T2DにおけるPITPアルファ(PITPNA)の役割を検討した。T2D患者の検体では非糖尿病者からの検体と比べPITPNA mRNAの存在量が少なく、PITPNA mRNAの存在量と血糖状態には逆相関が認められた。Pitpnaノックアウト(KO)マウスでは野生型の同腹子対照と比べ、膵島の萎縮、β細胞数の減少、それに比例した膵インスリン減少、および全体的な膵島数減少が認められた。MIN6細胞においてsiRNAでPitpnaを標的化すると、グルコースに応答したインスリン放出および細胞内インスリンが低下し、PITPNAがインスリンのプロセシングに関与していることを示していた。β細胞特異的Pitpna KOマウスでは対照マウスと比べ自由摂餌下の血糖値が高く、血漿インスリンが低値であった。これらのマウスではグルコース負荷に応じた血漿インスリンの減少および血中ブドウ糖の増加も認められた。透過型電子顕微鏡解析から、Pitpna KOマウスのβ細胞において未熟で中空のインスリン分泌顆粒の増加ならびに小胞体(ER)およびゴルジ体の膨張が認められた。Pitpna欠損β細胞では、ERストレスに関連する遺伝子の発現も亢進していた。ヒトドナーから単離した膵島においてshRNAでPITPNAを標的化すると、グルコースの存在下でのインスリン分泌が抑制された。さらにKClの存在下で細胞内Ca2+が減少したことから、PITPNAはK+チャネル閉鎖の下流の顆粒輸送レベルで働くことが示唆された。PITPNAのサイレンシングにより、インスリン顆粒のエキソサイトーシスの減少、インスリン顆粒のコア密度の低下、融合小胞数の減少、および成熟分泌顆粒の形成不全が生じた。PITPNAを回復させるだけで、T2Dヒトドナーの膵島におけるβ細胞機能が回復した。これらの結果は、PITPNAがβ細胞機能低下を回復させる上での標的となりうることを示唆している。

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2023年7月25日号

Editor's Choice

β細胞の回復

Research Article

細胞外マトリックスタンパク質ピカチュリンとオーファン受容体GPR179の光受容体シナプス会合体の構造

CaMKIIのニトロシル化の減少はマウスの記憶とシナプス可塑性に加齢関連機能障害を引き起こす

最新のEditor's Choice記事

2024年4月23日号

グリアは睡眠のための原動力

2024年4月16日号

腫瘍を倒すには非定型インテグリンが必要である

2024年4月9日号

伸張を感知して食欲を抑える

2024年4月2日号

アルツハイマー病に関連する脂肪滴

2024年3月26日号

傷つけるのではなく助けるようにミクログリアにバイアスをかける