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CaMKIIのニトロシル化の減少はマウスの記憶とシナプス可塑性に加齢関連機能障害を引き起こす
Decreased nitrosylation of CaMKII causes aging-associated impairments in memory and synaptic plasticity in mice
SCIENCE SIGNALING
25 Jul 2023 Vol 16, Issue 795
[DOI: 10.1126/scisignal.ade5892]
Nicole L. Rumian1, 2, Ronald K. Freund1, Mark L. Dell'Acqua1, 2, Steven J. Coultrap1, *, K. Ulrich Bayer1, 2, *
- 1 Department of Pharmacology, University of Colorado Anschutz Medical Campus, Aurora, CO 80045, USA.
- 2 Program in Neuroscience, University of Colorado Anschutz Medical Campus, Aurora, CO 80045, USA.
* Corresponding author. Email: steve.coultrap@cuanschutz.edu (S.J.C.); ulli.bayer@cuanschutz.edu (K.U.B.)
Editor's summary
認知機能は年齢とともに低下するが、脳内のS-ニトロシル化タンパク質量も年齢とともに減少する。そのようなタンパク質の1つが、ニューロン内で学習と記憶を支持するシナプスシグナル伝達を媒介するキナーゼCaMKIIである。Rumianらは、CaMKIIのS-ニトロシル化が、このキナーゼのシナプスへの局在化と、経験により誘導される脳活性を模倣した刺激に対する海馬ニューロンの反応にきわめて重要であることを明らかにした。S-ニトロシル化欠損CaMKIIを発現する若年マウスの認知機能は、野生型高齢マウスでみられるのと同程度まで低下していた。これらの知見は、加齢に関連する認知低下の機構を明らかにするものである。—Leslie K. Ferrarelli
要約
一過性のカルシウムイオン刺激によってCaMKIIのシナプス局在量が持続的に増加してカルシウムイオンに非依存性の(自律性の)持続的活性を誘導でき、それによって、カルシウムイオン刺激の持続期間の枠を超えてその記憶の痕跡を残せることから、CaMKIIには分子記憶機能がある。CaMKIIの自律性を誘導する2つの機構、すなわち、スレオニン286の自己リン酸化とGluN2Bへの結合によるシナプスへの作用については、十分に研究されている。本稿でわれわれは、CaMKII調節ドメインのニトロシル化と酸化という新たな自律性機構のニューロンにおける機能を調べた。CaMKII調節ドメインのニトロシル化/酸化が不能になる変異を有するノックインマウス系統CaMKIIΔSNOを作製し、野生型高齢マウスと同様に、記憶とシナプス可塑性に欠損があることを見出した。また、CaMKIIのニトロシル化が低下している野生型高齢マウスと同じく、しかし、他のCaMKII自律性機構が損なわれたマウスとは異なり、CaMKIIΔSNOマウスでは、θバースト刺激によって誘導される長期増強(LTP)は減弱されたが、高頻度刺激(HFS)によって誘導されるLTP(HFS-LTP)は減弱されなかった。野生型高齢マウスと同様に、若年成体CaMKIIΔSNOマウスでは、HFS-LTPにはL型電位開口型カルシウムイオンチャネルが必要であった。CaMKIIの酸化の低下は検出されなかったことから、高齢マウスでみられるこうした作用は、ニトロシル化の欠損によって引き起こされた可能性がある。海馬ニューロンでは、CaMKIIがニトロシル化されると、LTP刺激後と同様に、GluN2B結合に媒介される形で基底条件下のシナプスでの蓄積が誘導された。ただし、LTPに誘導されるシナプスでのCaMKIIの蓄積にはニトロシル化は必要なかった。このように、加齢に関連するCaMKIIのニトロシル化の減少は、シナプスにおけるCaMKIIの基礎量の減少など、シナプスへの慢性的な影響によって機能障害を引き起こす可能性がある。