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プロテオミクス解析により発がん性KRASシグナル伝達の標的、経路および細胞への影響を特定
Proteomic analyses identify targets, pathways, and cellular consequences of oncogenic KRAS signaling
SCIENCE SIGNALING
29 Jul 2025 Vol 18, Issue 897
DOI: 10.1126/scisignal.adt6552
Nicole Kabella1, Florian P. Bayer1, Konstantinos Stamatiou2, Miriam Abele3, Amirhossein Sakhteman1, Yun-Chien Chang1, Vinona Wagner4, 5, Antje Gabriel4, 5, Johannes Krumm6, Maria Reinecke1, 6, Melanie Holzner6, Michael Aigner1, Matthew The1, Hannes Hahne6, Florian Bassermann4, 5, 7, 8, Christina Ludwig3, Paola Vagnarelli2, Bernhard Kuster1, 7, 8, *
- 1 School of Life Sciences, Technical University of Munich, Freising, Germany.
- 2 College of Health, Medicine and Life Science, Brunel University London, London, UK.
- 3 Bavarian Center for Biomolecular Mass Spectrometry (BayBioMS), School of Life Sciences, Technical University of Munich, Freising, Germany.
- 4 Department of Medicine III, Klinikum Rechts der Isar, Technical University of Munich, Munich, Germany.
- 5 TranslaTUM, Center for Translational Cancer Research, Technical University of Munich, Munich, Germany.
- 6 OmicScouts GmbH, Freising, Germany.
- 7 German Cancer Consortium (DKTK), Heidelberg, Germany.
- 8 Bavarian Cancer Research Center (BZKF), Erlangen, Germany.
- * Corresponding author. Email: kuster@tum.de
Editor's summary
低分子量GTPaseであるKRASを活性化する種々の変異が、多くのがん種において細胞増殖を誘導している。Kabellaらは、特定の発がん型KRASや、その上流調節因子またはその下流エフェクターを阻害する薬物により、KRAS変異型ヒトがん細胞株を処理し、プロテオーム解析を行った。すべての細胞株の発がん性KRASシグナル伝達には主に下流キナーゼのMEKおよびERKが介在しており、増殖の阻害には、タンパク質の存在量よりも翻訳後修飾の変化が関係していた。これらの知見は、共通および細胞種特異的な発がん性KRASシグナル伝達に関する新たな洞察をもたらすものであり、KRAS阻害薬耐性を克服する併用療法開発戦略の手掛かりとなるかもしれない。—Annalisa M. VanHook
要約
低分子量GTPase KRASを活性化する変異は、がんにおいて頻繁に認められる遺伝子変異であることから、創薬が試みられ、KRAS活性の阻害薬が開発されている。そこでわれわれは、発がん性KRASシグナル伝達およびこのシグナル伝達系を標的とする薬物の細胞増殖抑制作用について、理解を深めることに取り組んだ。プロテオミクス解析により、阻害薬で処理したヒトKRAS変異型の膵臓がん細胞(KRAS G12CおよびG12D)ならびに肺がん細胞(KRAS G12C)における、タンパク質の存在量および翻訳後修飾の変化を検討した。使用した阻害薬は、変異型のKRAS、下流エフェクターのMEKおよびERK、ならびに上流調節因子のSHP2およびSOS1を標的とするものであった。リン酸化プロテオームを細胞株間で比較検討し、コアとなるKRASシグナル伝達シグネチャーおよび細胞株特異的なシグナル伝達ネットワークを明らかにした。リン酸化プロテオームはすべての細胞株において、自律的なKRAS発がん活性の程度により支配されていた。短期および長期の薬物曝露後のリン酸化プロテオームを比較した結果、細胞周期からの離脱に至るKRAS-MEK-ERK軸阻害の時間的ダイナミクスが明らかになった。静止状態への移行は、プロテオームが実質的にリモデリングされない状況で生じていたが、タンパク質のリン酸化およびユビキチン化の広範な変化を含んでいた。これらを総合したデータから、発がん性KRASシグナル伝達に関する洞察が得られ、この機能的背景に対してさらに多くのタンパク質が加えられ、さらに、KRASシグナル伝達阻害時の細胞死を回避する機構として、細胞周期からの離脱が関与していることが示された。