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β-アミロイドの除去に向けて

Get moving to clear β-amyloid

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
5 Dec 2023 Vol 16, Issue 814
[DOI: 10.1126/scisignal.adn2344]

Leslie K. Ferrarelli

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: lferrare@aaas.org

E. Kim, H. Kim, M. P. Jedrychowski, G. Bakiasi, J. Park, J. Kruskop, Y. Choi, S. S. Kwak, L. Quinti, D. Y. Kim, C. D. Wrann, B. M. Spiegelman, R. E. Tanzi, S. H. Choi, Irisin reduces amyloid-β by inducing the release of neprilysin from astrocytes following downregulation of ERK-STAT3 signaling. Neuron 111, 3619-3633.e8 (2023).

身体運動は脳細胞を刺激してβ-アミロイド分解酵素を分泌させる。

ヒトと動物において運動は認知機能を向上させるが、これには少なくとも一部、筋肉からのイリシンというホルモンの放出が係わっている。アルツハイマー病(AD)の動物モデルにおいて、運動は、進行性の認知障害および神経細胞脱落に寄与する脳内のβ-アミロイド斑の負荷を減少させる。診断を受けた後にはβ-アミロイド負荷に対する効果的な治療はないことから、その蓄積を防ぐまたは遅らせることが望ましい。Kimらは、イリシンが脳内のアストロサイトを刺激してβ-アミロイドの分解酵素を放出させることを見いだした。β-アミロイド病変の3次元(3D)細胞混合培養モデルにおいて、イリシンの添加により培地中のβ-アミロイド量が減少し、β-アミロイド病変に伴う細胞所見の程度が軽減し、エンドペプチダーゼであるネプリライシン(β-アミロイド分解酵素)のアストロサイトからの分泌が刺激された。イリシンは、他の細胞種のインテグリンαVβ5を活性化するのと同様に、アストロサイトでもこれを活性化した。これによりアストロサイト内のSTAT3およびNF-κBのシグナル伝達、ならびに炎症促進性反応の関連マーカーの発現が抑制された。3D培養モデルにおけるSTAT3または上流のシグナル伝達の阻害は、ネプリライシン分泌を増加させ培地中のβ-アミロイドを減少させるのに十分であった。インテグリンαVβ5の遮断またはネプリライシンの阻害は、イリシンにより誘導される培地中β-アミロイドの酵素分解を阻止した。したがってこれらの結果は、運動誘発性のイリシン産生がβ-アミロイドの除去を促進するであろう機構を示唆している。イリシンにより誘導されるSTAT3シグナル伝達の消失が、ネプリライシン分泌の増加をどのように可能にするのかは、この機構が転写レベルの制御に依存しないようであるため、明らかでない。今回認められたイリシンに誘導されるニューロンおよびアストロサイトの遺伝子発現の変化、ならびにADにおける神経毒性と関連しているリン酸化タウ量の減少についても、今後さらに検討するべきであろう。これらは全体としてADに対するイリシンの幅広い有益性を示唆し、さらに大きい像として、ADに対する運動の有益性さえも示唆するものである。

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