喘息に気持ちで勝つ?

Mind over asthma

Editor's Choice

SCIENCE SIGNALING
9 Jan 2024 Vol 17, Issue 818
[DOI: 10.1126/scisignal.adn8527]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.

* Corresponding author. Email: wwong@aaas.org

M. Tamari, K. L. Del Bel, A. M. Ver Heul, L. Zamidar, K. Orimo, M. Hoshi, A. M. Trier, H. Yano, T.-L. Yang, C. M. Biggs, K. Motomura, R. Shibuya, C. D. Yu, Z. Xie, H. Iriki, Z. Wang, K. Auyeung, G. Damle, D. Demircioglu, J. K. Gregory, D. Hasson, J. Dai, R. B. Chang, H. Morita, K. Matsumoto, S. Jain, S. Van Dyken, J. D. Milner, D. Bogunovic, H. Hu, D. Artis, S. E. Turvey, B. S. Kim, Sensory neurons promote immune homeostasis in the lung. Cell, 10.1016/j.cell.2023.11.027 (2023).

肺を神経支配している感覚性の迷走神経において、JAK1がアレルギー性炎症と喘息を抑制している。

免疫細胞におけるヤヌスキナーゼ1(JAK1)の活性化は、炎症促進性サイトカインの放出を誘発する。一方でTamariらは、肺を神経支配している感覚ニューロン中のJAK1は炎症と喘息症状を抑制することを見いだした。JAK1の機能獲得型変異はアトピー性皮膚炎および喘息と関連しており、この変異を有するマウスは皮膚のアレルギー性炎症を自然発症した。しかし基本条件下では、これらのマウスはアレルギー性肺炎症を発現することなく、杯細胞過形成、粘液産生、肺中の2型自然リンパ球(ILC2)および好酸球など免疫細胞の頻度増加を含め、その他の喘息症状を示さなかった。この変異マウスと対照マウスを用い、喘息と関連する病原性真菌であるAlternaria alternataを鼻腔内投与したところ、それに応答したアレルギー性肺炎症の一部は変異マウスの方が重症であった。肺はほぼ迷走神経節からの感覚ニューロンによる神経支配を受けているが、著者らは、迷走神経節が侵害受容性イオンチャネルである一過性受容体電位バニロイド1(TRPV1)およびNaV1.8陽性であることを確認した。野生型マウスにおけるTRVP1+迷走神経感覚ニューロンの化学的アブレーション、またはNaV1.8+ニューロンでのJak1遺伝子欠損により、肺炎症、杯細胞過形成、粘液産生、および肺のILC2と好酸球の頻度が増加した。これまでに公開されている単一細胞のRNA-Seqデータセットおよび転写因子のDNA結合モチーフの解析から、JAK1による転写因子STAT6の活性化により、神経ペプチドであるカルシトニン遺伝子関連ペプチドβ(CGRPβ)をコードするCalcbの発現が亢進する可能性が示唆された。NaV1.8+ニューロンでJak1を欠損するマウスでは、A. alternata抽出物に応答するCGRPβの産生が低下した。Rag1−/−マウスにおけるアレルギー性肺炎症はILC2に依存し、Rag1−/−マウスにおいてA. alternataにより誘導される肺炎症および喘息症状はCGRPβにより緩和し、CGRPβ受容体アンタゴニストにより増悪した。機能獲得型JAK1変異を迷走神経の感覚ニューロンにウイルスを用いて送達する、またはNaV1.8+ニューロン特異的に発現させることで、病原性真菌抽出物により誘導されるアレルギー性肺炎症からマウスを保護することができた。したがってこれらの結果から、JAK1は細胞の種類に依って炎症に対する異なる影響を及ぼし、さらに、JAK1阻害剤はアレルギー性肺炎症の治療に有効でない可能性が示された。

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