負を正に変える

Turning a negative into a positive

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SCIENCE SIGNALING
3 Sep 2024 Vol 17, Issue 852
[DOI: 10.1126/scisignal.ads7460]

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.

Corresponding author. Email: jfoley@aaas.org

S. A. Eberle, M. Gustavsson, Bilayer lipids modulate ligand binding to atypical chemokine receptor 3. Structure 32, 1174-1183 (2024).

負に荷電した脂質二重層は、ケモカインと非定型ケモカイン受容体の間の相互作用を増強する。

ケモカイン受容体は、Gタンパク質共役受容体(GPCR)ファミリーのメンバーである。ケモカインと結合すると、ケモカイン受容体は発生、炎症、免疫応答などの過程において細胞遊走を媒介する。ケモカイン受容体ファミリーの中で、非定型ケモカイン受容体(ACKR)はGタンパク質シグナル伝達を刺激せず、代わりに、従来型ケモカイン受容体が利用できるケモカイン量を減少させるスカベンジャーとして機能する。EberleとGustavssonは、ケモカインのCXCL11およびCXCL12と結合するACKR3へのリガンド結合に、さまざまな二重層脂質が及ぼす影響を調べた。著者らは、リン脂質をさまざまな組み合わせで双性イオン性(概ね電気的に中性)からアニオン性(負に荷電)までの脂質二重層を作り出し、これらから構成される対照およびACKR3含有ナノディスクを調製した。これらのナノディスクと放射標識CXCL12を用いてシンチレーション近接アッセイを実施すると、負に荷電した脂質の存在によりCXCL12とACKR3の結合が増加する一方、解離は減少し、その結果CXCL12の受容体への親和性が高まることが示された。この作用は、CXCL11を含むACKR3のその他のリガンドでは認められなかった。いずれのケモカインも正に荷電しており、CXCL11はCXCL12よりさらに電荷が大きい。しかし、ACKR3-CXCL12複合体の構造をACKR3-CXCL11複合体のモデルと比較すると、CXCL12の正荷電残基と脂質二重層のアニオン性脂質の間の相互作用によって、CXLC12は後のACKR3との結合に有利な向きに配置される一方、CXCL11の正荷電残基は、CXCL11が同様に配置されるほど十分に二重層に接近していないことが示唆された。ACKR3の活性コンホメーションと特異的に相互作用するナノボディの結合の解析により、アニオン性二重層は、低分子アゴニストの存在下で、ナノボディと受容体の結合を増加させることが示され、活性型のACKR3がアニオン性二重層において安定化されることが示唆された。総合すると、これらの結果からは、CXCL12の正荷電残基とアニオン性二重層の間の相互作用が、CXCL12とACKR3の結合を加速し、活性な受容体コンホメーションを安定化させることが示唆される。

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