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ROSによって眠りにつく
Lulled to sleep by ROS
SCIENCE SIGNALING
27 May 2025 Vol 18, Issue 888
DOI: 10.1126/scisignal.adz1684
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: wwong@aaas.org
Y. Tian, L. Kang, N. T. Ha, J. Deng, D. Liu, Hydrogen peroxide in midbrain sleep neurons regulates sleep homeostasis. Cell Metab., 10.1016/j.cmet.2025.04.016 (2025).
睡眠促進ニューロンによって産生されるROSが睡眠の必要性を追跡し、睡眠を開始させる。
睡眠はニューロンの酸化的損傷を防止すると考えられている。Tianらは、睡眠促進ニューロンによって産生される活性酸素種(ROS)が、睡眠の必要度を追跡し、睡眠の開始に不可欠であることを見出した。睡眠を剥奪されたマウスにおいて、ROS感受性色素であるDHEを用いたイメージングにより、ROSは青斑核のparafacial zone(PZ)および黒質網様部(SNr)のニューロンに蓄積することが示された。これらの部位はすべて、睡眠・覚醒サイクルの制御に関与することがこれまでに明らかにされている。このようなPZとSNrにおけるROSの蓄積は、遺伝的にコードされたH2O2のレシオメトリック蛍光バイオセンサーによっても検出された。断眠後の睡眠回復中に、SNrではH2O2量が減少したが、PZでは減少せず、SNrニューロンを除去したマウスは、断眠が解除された後も眠らなかった。睡眠・覚醒サイクルが正常なマウスでは、SNrニューロンにおける細胞質へのH2O2蓄積が覚醒中にもっとも多く、睡眠開始後に減少し始め、ノンレム(NREM)睡眠中は覚醒中より少なく、睡眠に関連する緩徐な高振幅の脳波活動の指標であるデルタパワーと相関した。SNrのH2O2量を減少させる操作によって、NREM睡眠が減少した。一方、SNrのH2O2量をほどよく増加させる操作によって、睡眠開始が促進され、NREM睡眠が増加したが、神経炎症を誘導するレベルまでH2O2量が高まると、睡眠の断片化が生じた。細胞質へのH2O2蓄積を実験的に誘導すると、H2O2活性化チャネルのTRPM2に依存する形でニューロンの活動が刺激され、SNrにおいてこのチャネルをノックダウンすると、断眠後の睡眠回復とNREM睡眠に有害な影響が生じた。これらの結果は、覚醒中に発生するSNrでのH2O2の増加が、TRPM2を介して、睡眠を開始するニューロンの活動を促進する仕組みを示している。