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Gタンパク質を介したうつ病治療
Treating depression through G proteins

SCIENCE SIGNALING
12 May 2026 Vol 19, Issue 937
DOI: 10.1126/scisignal.aei6144
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: lferrare@aaas.org
H. Munguba, A. Arefin, R. Hasegawa, L. Posa, G. R. Romano, T. N. Peddada, A. Donatelle, A. Singh, V. A. Gutzeit, A. Vijay, P. Vaddi, M. Kristt, D. Shaver, S. Hoque, J. Broichhagen, J. M. Stujenske, F. S. Lee, E. O’Brien, J. Levitz, C. Liston, Mechanism-guided identification of antidepressant G protein-coupled receptor drug targets. Cell 9, 2612–2632.e24 (2026).
X. Shi, H.-Q. Liu, S.-Z. Cai, Y.-H. Shen, J.-L. Chai, M.-Q. Zhang, C.-Y. Xu, Z.-Q. Zhang, J. Marshal, C. Cao, The protein RAB5IF promotes BDNF signaling by stimulating the SUMOylation of Gαi1/3 to reduce depressive-like behaviors in mice. Sci. Signal. 19, eaec8898 (2026).
Gタンパク質共役受容体による脳回路の制御に関する洞察は、新たなより良い抗うつ薬を解明するかもしれない。
うつ病は、(多くの場合は慢性ストレスを受けて)動機や報酬系を誘導する脳回路の不適応変化を伴う。うつ病治療に使用される薬物は一般にモノアミン神経伝達物質を標的とするが、それらでは効果が得られないことが非常に多く、多数の望ましくない副作用も伴う。麻酔薬であるケタミンの抗うつ作用は即効性があり有効であるが、多数の向精神性の副作用と生理学的副作用もある。Mungubaらは、抗うつ効果に寄与しているケタミンの生化学的および細胞レベルの機構を、その副作用を引き起こしている機構と区別するための研究を行った。慢性ストレス負荷マウスにおけるケタミンの行動上の影響には、前頭前皮質内側部(mPFC)のソマトスタチン(Sst)陽性介在ニューロン上のμオピオイド受容体(MOR)に対するその部分的アゴニズムが媒介していた。Sst+介在ニューロンは脳内、特にmPFCへの情報の流れを形成し、動機と情動を制御するキューを統合している。慢性ストレスはSst+介在ニューロン上のMORの発現を亢進し、このニューロンのシナプス前小胞量および小胞補充速度を増大させて、mPFC回路に対する抑制活性を増強していた。ケタミン活性型MORはヘテロマーGタンパク質Gi/oを一時的に活性化し、それによって介在ニューロンの活性を一過性に低下させ、結果としてmPFC回路に対する抑制が低い期間を生じさせた。Sst+介在ニューロンにはMORに加え、その他数十のGタンパク質共役受容体(GPCR)が豊富に含まれている。マウスにおいて、最も豊富に含まれる2つの受容体を標的として、Gi/o共役型relaxin-3受容体の活性化またはGq共役型prokineticin 2受容体を阻害したとき、慢性ストレスの抑うつ効果が改善された。低用量のMORアゴニストと、Sst+に豊富に存在する他2つのGPCR(mGluR1および5-HT1AR)を標的とする化合物を組み合わせたカクテルは、ケタミンと同程度の作用を示したが、ケタミンがもつ運動協調および依存症関連の作用はもたなかった。本誌ArchiveにおいてShiらは、別のGi共役型抗うつ経路の制御における、さらに複雑な機構を解明した。慢性ストレスに伴ううつ病は、ニューロトロフィンBDNFの活性低下と関連していることが多い。著者らは、BDNFとその受容体であるTrkBとの複合体の形成が、タンパク質RAB5IFにより増強すること、これによりTrkB会合Gタンパク質サブユニットのGαi1およびGαi3のSUMO化が間接的に促進されたことを見いだした。慢性ストレス負荷マウスではこの機構が、海馬ニューロンにおける重要な形態を維持し、うつ病関連行動を軽減していた。これら両試験からの知見により、気分と行動の根底にある神経回路のGタンパク質共役制御についてさらなる洞察が得られ、副作用が少ない未来の抗うつ薬の開発に役立つかもしれない。
2026年5月12日号






