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腸幹細胞にストレスがたまる

Gut stem cells get stressed out

Editors' Choice

SCIENCE SIGNALING
13 May 2025 Vol 18, Issue 886
DOI: 10.1126/scisignal.ady6765

Annalisa M. VanHook

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org.

G. Zhang, Y. Lian, Q. Li, S. Zhou, L. Zhang, L. Chen, J. Tang, H. Liu, N. Li, Q. Pan, Y. Gu, N. Lin, H. Wang, X. Wang, J. Guo, W. Zhang, Z. Jin, B. Xu, X. Su, M. Lin, Q. Han, J. Qin, Vagal pathway activation links chronic stress to decline in intestinal stem cell function. Cell Stem Cell 32, 778-794.e10 (2025).

慢性ストレスは副交感神経系を通じて腸幹細胞機能を障害する。

慢性的な心理的ストレスは心と身体に悪影響を及ぼす。消化管では慢性ストレスが腸管運動を変化させ、ディスバイオシス(腸内細菌叢の乱れ)に寄与し、炎症性腸疾患を増悪させる可能性がある。腸上皮は代謝回転が速いことから、腸管の健康には、上皮を補充する腸幹細胞(ISC)が適切に機能することが重要である。Zhangらはマウスにおいて慢性的な心理的ストレスがISC機能を障害することを明らかにした。さまざまな種類の慢性ストレスを受けた動物では、ISCの細胞数の減少、増殖の低下およびオルガノイド形成能の低下が認められた。これらの影響は、迷走神経のコリン作動性副交感神経、遠心性迷走神経により活性化されるコリン作動性腸管神経、およびISC上のM3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体(CHRM3)の活性化に依存していた。慢性的にストレスを受けているマウスでは、ISCにおけるCHRM3を介したアセチルコリンシグナル伝達がキナーゼp38を活性化し、それによってミトコンドリア分裂タンパク質DRP1のリン酸化が促進された。ミトコンドリア分裂の亢進により、ISCの再生能に重要である酸化的リン酸化の低下が生じた。ストレスを受けているマウスではISCの腫瘍抑制因子p53も増加していたことから、p38依存性のp53を介した細胞周期停止も、慢性ストレス誘導性のISC障害に寄与している可能性が示唆された。慢性的にストレスを受けているマウスでは、迷走神経の化学遺伝学的サイレンシングによってISCの細胞数増加、再生能の亢進および酸化的リン酸化の亢進が生じた。結腸直腸がん患者の腫瘍近傍結腸検体を解析したところ、慢性ストレスがあると自己報告していた患者ではそうでない患者と比べ、アセチルコリンおよびリン酸化p38が増加し、ISCマーカーが減少していた。これらの知見から、慢性ストレスがISC機能に直接影響しうる経路が明らかとなり、これが、ストレスを受けている人々を苦しめているいくつかの消化器症状の原因であると考えられた。

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