• ホーム
  • がん 腫瘍形成におびき寄せられる

がん
腫瘍形成におびき寄せられる

Cancer
Decoyed from Tumorigenesis

Editor's Choice

Sci. Signal., 6 July 2010
Vol. 3, Issue 129, p. ec202
[DOI: 10.1126/scisignal.3129ec202]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

PTEN(第10染色体から欠失したホスファターゼ・テンシンホモログ)は、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)とその下流にある AKTなどのエフェクターを介する細胞分裂促進シグナル伝達に拮抗することによって、がん抑制因子として作用する。PTENの存在量を調節する機構の1つ は、マイクロRNA(miRNA)を介する。miRNAは低分子非コードRNA であり、mRNAの翻訳を妨げるか、あるいはmRNAの安定性を低下させること(あるいはその両方)によって、標的遺伝子の転写後調節を行なう (RigoutsosとFurnariの解説参照)。Polisenoらは、偽遺伝子PTENP1の配列がPTENのコード配列および3'非翻訳領域(UTR)の一部分と相同であることに注目し、PTENの3'UTR領域に存在するmiR-17、miR-214、miR-19、miR-26のシードマッチが、PTENP1にも存在することを見いだした。DU145前立腺がん細胞では、PTENPTENP1のmRNA存在量が、miR-19bとmiR-20aのトランスフェクションによって減少し、PTENを標的とするmiRNAのアンチセンス阻害因子の処理によって増大した。PTENP1 3'UTRの過剰発現によって、PTENのmRNAおよびタンパク質存在量は増大した。さらに、それに伴って、増殖因子の刺激に応答するAKT活性化の抑制、細胞増殖の抑制、足場非依存性増殖の促進などのような、PTENのがん抑制活性が促進された。対照的に、PTENP1を選択的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)は、PTENのmRNAおよびタンパク質存在量を減少させ、細胞増殖を促進した。正常組織または前立腺腫瘍の試料において、PTENP1の存在量はPTENの存在量との相関を示した。さらに、PTENP1遺伝子座のコピー数が散発性結腸がんでは減少し、2つの患者集団においてPTEN存在量と相関を示した。配列解析によって、がん原遺伝子KRASとその偽遺伝子KRAS1Pなど、その他の遺伝子とそれぞれの偽遺伝子とのあいだで、miRNA結合部位が保存されていることが明らかになった。KRAS1Pの 3'UTRが過剰発現すると、KRASのmRNAおよびタンパク質存在量が増大し、細胞増殖が促進された。このように、これらの結果は、偽遺伝子が miRNA結合のデコイとして作用しながら、対応する遺伝子と同様の生物学的役割を担い、ただの非機能性の「ジャンク」DNAではないことを示唆する。

L. Poliseno, L. Salmena, J. Zhang, B. Carver, W. J. Haveman, P. P. Pandolfi, A coding-independent function of gene and pseudogene mRNAs regulates tumour biology. Nature 465, 1033-1038 (2010). [PubMed]

I. Rigoutsos, F. Furnari, Decoy for microRNAs. Nature 465, 1016-1017 (2010). [PubMed]

W. Wong, Decoyed from Tumorigenesis. Sci. Signal. 3, ec202 (2010).

英文原文をご覧になりたい方はScience Signaling オリジナルサイトをご覧下さい

英語原文を見る

2010年7月6日号

Editor's Choice

がん
腫瘍形成におびき寄せられる

Research Article

側抑制回路におけるエラーの最小化

Meeting Reports

エルサレムに鳴り響く「ジングルベル」ならぬ「ジンク(亜鉛)ベル」

最新のEditor's Choice記事

2024年2月27日号

ccRCCでTBK1を遮断する方法

2024年2月20日号

密猟者がT細胞内で森の番人に転身した

2024年2月13日号

RNAが厄介な状況を生み出す

2024年2月6日号

細胞外WNT伝達分子

2024年1月30日号