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神経科学
グルタミン酸放出を抑制する
Neuroscience
Reducing Glutamate Release
Sci. Signal., 12 October 2010
Vol. 3, Issue 143, p. ec312
[DOI: 10.1126/scisignal.3143ec312]
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
従来からの薬物では発作を十分にはコントロールできないてんかん患者では、高脂肪、低タンパク質及び低炭水化物食(ケト原性食)を摂ることによって 症状がある程度緩和される。このような食事は、血液脳関門を通過できるアセト酢酸などケトン体の血清中濃度を上昇させる。しかし、このような代謝産物が興 奮性または抑制性神経伝達作用を調節しててんかん症状を軽減する機序は不明である。Juge(樹下)らは、プロテオリポソーム再構成系を用いて、興奮性神 経伝達物質であるグルタミン酸の前シナプス小胞への取込みを媒介する小胞型グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)の調節について検討した。これまで にも報告されているように、VGLUT2によるプロテオリポソームへのグルタミン酸の取込み(イオノフォアのバリノマイシンに応答する取込み)には、緩衝 液中の塩化物イオン(Cl-)の存在が必要であったが、Cl- はグルタミン酸と共輸送されなかった。著者らは、Cl- がVGLUT2の活性をアロステリックに調節していたと仮定して、グルタミン酸輸送に対する他の化合物の影響について調べた結果、VGLUT2の活性を抑制して、そのCl- 依存性を高めるアセト酢酸などの代謝産物を多数発見した。小胞型神経伝達物質トランスポーターファミリーの他のメンバーもアセト酢酸によって抑制された。 アセト酢酸は培養ラット海馬ニューロンからのグルタミン酸放出を可逆的に抑制したが、アストロサイトからの放出は抑制しなかった。このケトン体はマウス海 馬切片のCA1錘体細胞からのグルタミン酸放出の素量サイズも減少させた。最後に、痙攣誘発物質である4APを投与したラットにおいて、アセト酢酸は発作 の強度を減弱させ、脳内に分泌されるグルタミン酸量を減少させた。これらのデータを総合すると、代謝状態はVGLUTタンパク質の活性化を調節することに よって興奮性神経伝達に影響を及ぼすと考えられる。
N. Juge, J. A. Gray, H. Omote, T. Miyaji, T. Inoue, C. Hara, H. Uneyama, R. H. Edwards, R. A. Nicoll, Y. Moriyama, Metabolic control of vesicular glutamate transport and release. Neuron 68, 99?112 (2010). [PubMed]
J. F. Foley, Reducing Glutamate Release. Sci. Signal. 3, ec312 (2010).