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宿主と病原体の相互作用
感染の足場
Host-Pathogen Interactions
Scaffold for Infection
Sci. Signal., 11 January 2011
Vol. 4, Issue 155, p. ec10
[DOI: 10.1126/scisignal.4155ec10]
Wei Wong
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
細菌性病原体は、宿主の細胞装置を支配して、生存および増殖の助けとなる状態を作り出すエフェクタータンパク質を分泌する。一般的な分泌経路を通して小胞輸送を変化させるエフェクタータンパク質のスクリーニングで、Selyuninらは、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7によってコードされるIII型エフェクターEspGの発現が、異所的にHeLa細胞で発現させたヒト成長ホルモンのエキソサイトーシスを抑制することを見出した。蛍光標識したEspGはゴルジ体に局在し、このオルガネラの断片化を引き起こした。酵母2ハイブリッドスクリーニングによって、EspGがGTPアーゼのARF1とARF6(小胞輸送に関与)ならびにp21活性化キナーゼ(PAK)1、2、および3(GTPアーゼのCdc42とRac1のエフェクター)と相互作用することが明らかになった。in vitroでの結合アッセイによって、EspGがARFの GTPアーゼドメイン、およびPAKの自己阻害ドメインのIα3へリックスと相互作用することが示唆された。ARF6の GTPアーゼドメインと複合体を形成するEspGの結晶構造では、EspGは、ARF6のGTP結合型(GDP結合型ではない)のスイッチIループに選択的に結合した。これによって、EspGは、ARF-GAP(GTPアーゼ活性化タンパク質)のARF6への結合を遮断し、GAPにより活性化されるGTPの加水分解を防ぐことができる。PAK2のIα3へリックスと複合体を形成するEspGの結晶構造は、自己阻害されているPAK1のホモ二量体におけるIα3へリックスの結晶構造と比較して、EspG結合がキナーゼと自己阻害ドメインの相互作用を遮断し、PAKをアロステリックに活性化した。この結果は、キナーゼ活性アッセイによって確認された。EspG上のARF6とPAK2の結合部位は異なり、重複していなかった。ARF1GTPはEspGを動員し、次にPAK2をゴルジ体を模倣したリポソームの膜表面に動員した。HEK293A細胞では、トランスフェクションされたARF1とEspGはゴルジ体で共局在した。また、蛍光標識したPAK2 Iα3へリックスをコードする構築物は野生型EspGと共局在したが、PAK2を活性化できない変異型EspGとは共局在しなかった。著者らは、EspGが提供する偽造足場によって、細菌は内因性の調節系によって妨害されることなく、ARFおよびPAKシグナル伝達経路を破壊することができると提案している。
A. S. Selyunin, S. E. Sutton, B. A. Weigele, L. E. Reddick, R. C. Orchard, S. M. Bresson, D. R. Tomchick, N. M. Alto, The assembly of a GTPase-kinase signalling complex by a bacterial catalytic scaffold.Nature 469, 107-111 (2011). [PubMed]
W. Wong, Scaffold for Infection. Sci. Signal. 4, ec10 (2011).