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メカノトランスダクション
YAPが関与する機械的シグナル伝達

Mechanotransduction
Mechanical YAPping

Editor's Choice

Sci. Signal., 14 June 2011
Vol. 4, Issue 177, p. ec162
[DOI: 10.1126/scisignal.4177ec162]

John F. Foley

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

細胞外マトリックス(ECM)の機械的特性は、ECMによって覆われている細胞の動態と機能に、また生物の発生や組織の構築にとって不可欠である。実際に、ECMの硬さや、ECMの硬さに対する細胞の感度が変化することによって、病的状態に至る可能性がある。細胞骨格の再構築の他に、機械的応答には遺伝子の活性化の変化もかかわる。Dupontらは、様々な硬度のECMに曝露された培養哺乳類上皮細胞(mammary epithelial cell:MEC)における遺伝子発現の変化のバイオインフォマティクス解析を行うことによって、硬度の増強によって調節される遺伝子と、転写調節因子のYAP(Yes-associated protein)およびTAZ(PDZ結合モチーフを有する転写コアクチベーター)に特徴的な遺伝子シグネチャー配列(これらはHippo経路によるシグナル伝達に関わっていた)との関連性を発見した。リアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応解析によって、YAPとTAZによる調節を受ける二つの遺伝子(CTGFANKRD1)が硬いヒドロゲル上で培養したヒトMECで発現するのに対して、柔らかい基質上で培養したMECにおけるYAPとTAZの活性は、YAPやTAZに特異的な低分子干渉RNAで処理された細胞における活性と同程度であることが実証された。また、免疫蛍光顕微鏡解析によって、硬い基質上で培養した細胞ではYAPとTAZがMECの核内に局在するのに対して、柔らかいECM上で培養した細胞では、いずれのタンパク質も主に細胞質に存在することが明らかになった。細胞の伸展はYAPとTAZの核への局在を誘導するのに十分であったが、細胞同士の接触はその局在には不要であった。さらに、細胞の伸展による低分子量GTPase Rhoの活性化と、それによって生じる(ストレスファイバーの形成を介する)アクチン細胞骨格の張力が、核内へのYAPとTAZの局在と保持、ならびにそれらの転写活性に必要であった。このような応答は、Hippoシグナル伝達の構成要素であるLATSを欠乏させても影響を受けなかった。YAPとTAZを欠乏させると、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)を硬いECM上で培養したときに起こる骨形成分化が妨げられた。逆に、YAPとTAZを欠乏させたMSCを硬いECM上で培養すると、通常は柔らかい基質上で増殖した細胞でのみ生じる細胞運命である、脂肪形成性の分化が起こった。まとめると、これらのデータは、YAPとTAZは環境から受ける機械的シグナルのセンサーおよびメディエーターとして働き、ECMによる細胞運命決定に重要な役割を果たす可能性がある。

S. Dupont, L. Morsut, M. Aragona, E. Enzo, S. Giulitti, M. Cordenonsi, F. Zanconato, J. Le Digabel, M. Forcato, S. Bicciato, N. Elvassore, S. Piccolo, Role of YAP/TAZ in mechanotransduction. Nature 474, 179-183 (2011). [PubMed]

J. F. Foley, Mechanical YAPping. Sci. Signal. 4, ec162 (2011).

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2011年6月14日号

Editor's Choice

メカノトランスダクション
YAPが関与する機械的シグナル伝達

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