細胞サイズ
勾配の形成

Cell Size
Shaping the Gradient

Editor's Choice

Sci. Signal., 28 June 2011
Vol. 4, Issue 179, p. ec178
[DOI: 10.1126/scisignal.4179ec178]

Elizabeth M. Adler
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

Elizabeth M. Adler

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

桿状の分裂酵母では、キナーゼPom1の細胞表層での濃度勾配が細胞サイズと有糸分裂を関連付けている。すなわち、短い細胞では、細胞の両端を起点とする双極性のPom1勾配が短時間のうちに拡散するので、細胞赤道部の表層に位置する有糸分裂誘導因子を十分に阻害できるが、長い細胞では拡散に時間がかかるため、有糸分裂誘導因子を十分に阻害できない。Pom1の局在化がそのキナーゼ活性、および微小管結合性の細胞先端タンパク質Tea4に依存することに注目し、Hachetらは、蛍光標識されたタンパク質を用いてPom1勾配の確立の根底にある機構を調べた。Tea4を欠失させると、Pom1の細胞表層への局在はほぼ消失した。Tea4とPom1の分布は異なっており、皮層のPom1は細胞先端部を起点として拡散しており、光退色後の蛍光回復(FRAP)解析では、Pom1が細胞膜に沿って側方に移動することが示された。Tea4が側方の表層にある凝集点に異所性に局在すると、Pom1はこれらの凝集点に動員され、そこを起点として細胞膜に沿って拡散した。Pom1の短縮型変異体の解析によって、Pom1の表層への局在は荷電しているリジン残基やアルギニン残基が豊富な領域に依存すること、さらに、Pom1のN末端(この領域を含むPom11-699)はホスファチジルセリンおよびホスファチジルイノシトールリン酸(負電荷をもつ細胞膜成分)と結合することが示された。触媒不活性型Pom1(Pom1KD)は表層全体に拡散したが、これ現象はキナーゼドメインの外側にある6つの自己リン酸化候補部位のセリンまたはトレオニンをアラニンに置換した変異体Pom1(Pom16A)でも同様であった。in vitroのキナーゼアッセイとそのSDS-PAGE泳動パターンの評価によって、Pom1が実際に自己リン酸化されることが示され、このリン酸化は質量分析によっても実証された。リン酸化されていないPom1は、リン酸化されたPom1に比べて、より安定的に膜に存在していた。さらに、脱リン酸化によって、Pom1の膜脂質との結合が増強された。Tea4はPom1に結合し、この相互作用がPom1の表層への局在に関与していた。ただし、思いがけないことに、Pom1KDとPom16Aは、Tea4欠損細胞またはPom1との結合能を欠失させた変異型Tea4を含む細胞の表層に局在した。Tea4はホスファターゼのDis2を細胞先端部に動員し、蛍光タンパク質再構成法によって、Pom1、Tea4、Dis2は近接して存在し、Pom1とDis2の近接の程度はTea4に依存することが示された。さらに、Pom1の細胞先端部への局在は、Dis2のTea4への結合を阻害すると低下し、Dis2とPom1の両方への結合が阻害されたTea4変異体を導入すると消失した。著者らは、Dis2によってPom1が脱リン酸化されると正電荷をもつ領域が露出し、細胞の膜との結合が開始されるが、Pom1が自己リン酸化すると膜との会合が低下し、細胞質に拡散するために、表層での側方への動きが制限されると提唱している。このように、Pom1の自己リン酸化が膜に沿った側方拡散およびDis2による脱リン酸化と組み合わされることによって、Pom1の表層での濃度勾配が形成される。

O. Hachet, M. Berthelot-Grosjean, K. Kokkoris, V. Vincenzetti, J. Moosbrugger, S. G. Martin, A phosphorylation cycle shapes gradients of the DYRK family kinase Pom1 at the plasma membrane.Cell 145, 1116-1128 (2011). [PubMed]

E. M. Adler, Shaping the Gradient. Sci. Signal. 4, ec178 (2011).

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