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癌生物学
TRADD:核内部から老化を促進
Cancer Biology
TRADD: Promoting Senescence from Within the Nucleus
Sci. Signal., 12 June 2012
Vol. 5, Issue 228, p. ec161
[DOI: 10.1126/scisignal.2003301]
Ernesto Andrianantoandro
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
I. I. C. Chio, M. Sasaki, D. Ghazarian, J. Moreno, S. Done, T. Ueda, S. Inoue, Y.-L. Chang, N. J. Chen, T. W. Mak, TRADD contributes to tumour suppression by regulating ULF-dependent p19Arf ubiquitylation. Nat. Cell Biol. 14, 625-633 (2012). [PubMed]
腫瘍壊死因子受容体(tumor necrosis factor receptor:TNFR)のシグナル伝達は、細胞死と炎症を媒介し、がんに関連する。TNFR関連デスドメイン(TNFR-associated death domain:TRADD)は、細胞死と炎症促進性シグナル伝達に必要な細胞質のアダプタータンパク質である。Chioらは、Tradd欠損(Tradd-/-)マウスにおける腫瘍形成について調べるためにマウス皮膚がんモデルを用いて、Tradd-/-マウスは野生型マウスよりも早く腫瘍を発症することを発見した。恒常活性型Rasに応答して、初代培養細胞のなかには、核タンパク質p19Arfをコードする遺伝子の発現が亢進しているものがあった。p19Arfは腫瘍抑制因子であり転写因子であるp53を安定することによって、細胞の老化と形質転換抑制をもたらす。野生型のマウス胚性線維芽細胞(murine embryonic fibroblast:MEF)に比べて、恒常活性型HRasV12を形質導入されたTradd-/- MEFは、増殖停止の減弱、p19Arfタンパク質量の減少(ただし転写物の量は減少せず)、p53の蓄積量の減少を示した。p19Arfの安定性はユビキチン化によって制御される。プロテアソームが阻害されているHEK293細胞では、TRADDを過剰発現させると、ユビキチン化されたp19Arf(Ub-p19Arf)の量が減少した。推定される核外輸送シグナルに変異のあるTRADDは、核内に蓄積され、プロテアソームが阻害されている細胞内のUb-p19Arfの量をさらに減少させた。同様に、核局在化配列を欠くTRADDは、Ub-p19Arfの量を減少させなかった。過剰発現TRADDの存在下および不在下でp19ArfをE3ユビキチンリガーゼULFとともに免疫沈降させることによって、TRADDがp19ArfとULFの間の相互作用を弱めることが示された。ULFはTRADDとも共免疫沈降し、核内で共局在した。このように、TRADDは、核内においてULFをp19Arfから隔離することによって、p19Arfを蓄積させて老化を促進し、腫瘍抑制因子として機能しているのかもしれない。
E. Andrianantoandro, TRADD: Promoting Senescence from Within the Nucleus. Sci. Signal. 5, ec161 (2012).