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がん細胞を死滅から守る

Cancer
Protecting Cancer Cells from Death

Editor's Choice

Sci. Signal., 10 July 2012
Vol. 5, Issue 232, p. ec183
[DOI: 10.1126/scisignal.2003376]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

S. Acharyya, T. Oskarsson, S. Vanharanta, S. Malladi, J. Kim, P. G. Morris, K. Manova-Todorova, M. Leversha, N. Hogg, V. E. Seshan, L. Norton, E. Brogi, J. Massagué, A CXCL1 paracrine network links cancer chemoresistance and metastasis. Cell 150, 165-178 (2012). [Online Journal]

化学療法に対する耐性は、有用性を制限するだけでなく、高い悪性度の腫瘍細胞の生存を引き起こすことも多い。がん細胞、それを取り巻く間質細胞、免疫細胞のすべてが、がんの進行に関与する。Acharyyaらは、ケモカインCXCL1をコードする遺伝子の発現が、肺に転移した乳がんに関連するという報告を追跡調査した。一部の原発性乳房腫瘍(7.5%)と転移巣(20%)において、CXCL1と関連する遺伝子CXCL2(まとめてCXCL1/2)が増幅していることを、Acharyyaらは見出した。2つのマウス乳房腫瘍モデルと、乳房腫瘍細胞株MDA-MB-231に由来するヒト肺転移細胞株(LM2)を用いた異種移植モデルにおいて、CXCL1/2をノックダウンすると、腫瘍体積が減少し、肺転移が低下した。CXCL1/2の受容体は腫瘍には検出されなかったので、著者らは、免疫染色と蛍光標識細胞分取を行ない、腫瘍微小環境内に存在し、これらの腫瘍細胞によって産生されたケモカインに応答する細胞を同定した。CXCL1/2ノックダウン細胞由来の腫瘍には、CD11b+Gr1+骨髄系細胞、特に顆粒性好中球集団はほとんど存在しなかった。ヒト乳房腫瘍においてCXCL1発現に関連する分泌タンパク質または細胞表面タンパク質をコードする遺伝子に限定して遺伝子発現解析を行なうによって、43個の遺伝子が明らかになった。S100A8およびS100A9(S100A8/9)をコードする遺伝子は、腫瘍由来のCD11b+Gr1+骨髄細胞に発現していた。S100A8/9は二量体を形成し、Toll様受容体4(TLR4)と終末糖化産物受容体(RAGE)を活性化するカルシウム結合タンパク質であり、がんと炎症に関連がある。骨髄にS100a9-/-細胞を移植したマウスに、LM2細胞を移植すると、乳房腫瘍の増殖と肺転移が低下し、腫瘍と肺におけるアポトーシス細胞が増加した。乳がん患者においては、肺転移巣のS100A8/9存在量がより多いことが、生存期間の短縮に関連していた。マウスへの細胞傷害性化学療法剤投与後に、LM2細胞の腫瘍において、CXCL1/2の発現の増大とS100A9陽性骨髄細胞の動員の増大が認められた。S100A8/9陽性細胞の同様の増加は、化学療法を受けた患者の乳房腫瘍を、受けなかった患者の乳房腫瘍と比較した場合にも観察された。LM2細胞を細胞傷害性化学療法剤に曝露しても、CXCL1/2の発現は誘導されなかった。しかし、これらの薬物に曝露された初代内皮細胞または初代骨髄由来細胞の培養上清によって、LM2細胞においてCXCL1/2の発現が実際に誘導された。LM2腫瘍を有するマウスの肺に由来する内皮細胞では、化学療法剤投与によって、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)をコードする遺伝子の発現が刺激された。培養LM2細胞において、TNF-αはNF-κB(核内因子κB)経路を活性化し、CXCL1発現を刺激した。TNF-αの抗体阻害剤をマウスに投与すると、S100A8/9陽性細胞の動員が低下した。2種類のヒト乳がん細胞株のうちの1つの移植によって肺転移を起こしたマウスにおいて、CXCR2(CXCL1/2の受容体)に対するアンタゴニストを細胞傷害性化学療法と併用すると、検出可能な肺転移が相乗的に低下または消失したことから、この間質‐腫瘍生存経路を破壊することが、化学療法耐性の抑制にとって有効である可能性が示唆された。

N. R. Gough, Protecting Cancer Cells from Death. Sci. Signal. 5, ec183 (2012).

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2012年7月10日号

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