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糖尿病
β細胞がらしさを失う
Diabetes
β Cells Lose Their Identity
Sci. Signal., 18 September 2012
Vol. 5, Issue 242, p. ec243
[DOI: 10.1126/scisignal.2003615]
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
C. Talchai, S. Xuan, H. V. Lin, L. Sussel, D. Accili, Pancreatic β cell dedifferentiation as a mechanism of diabetic β cell failure. Cell 150, 1223-1234 (2012). [Online Journal]
S. Puri, M. Hebrok, Diabetic β cells: To be or not to be? Cell 150, 1103-1104 (2012). [Online Journal]
一部の2型糖尿病患者は、膵β細胞のインスリン産生能力が低下しているために、血中グルコース濃度を正しく調節することができなくなる。慢性ストレスに応答してβ細胞が疲弊して、アポトーシスによる細胞死を起こした結果、β細胞量が減少するが、これが2型糖尿病におけるβ細胞機能不全に関与しているのか、それとも唯一の機構であるのかは明らかでない。Talchaiらは、β細胞量の増加とストレスに対するβ細胞の応答にとって必要な転写因子Foxo1を欠損するβ細胞を有するマウス(IKOマウス)について検討した。基礎条件下では、IKOマウスは正常なβ細胞機能および耐糖能を示した。しかし、様々なストレス条件下では、IKOマウスはインスリン産生の低下、耐糖能低下、およびホルモンであるグルカゴンの産生の増大を示した。免疫組織化学的解析および細胞の系統追跡実験によって、ストレスを受けたIKOマウスのβ細胞は、生存率は正常であったが、脱分化しており、β細胞マーカーに加えて、インスリン産生に必要な転写因子と酵素も失っていることが示された。Foxo1欠損β細胞の分化状態の解析から、Oct4およびNeurogenin3を含む前駆体様細胞のマーカーの存在が示された。さらなる細胞系統追跡実験によって、IKO膵島における脱分化したβ細胞は、グルカゴン産生α細胞などの他の細胞種を生じさせることが明らかになった。2型糖尿病の他のマウスモデルの解析によって、β細胞の特徴が同様に失われて、前駆体細胞マーカーの存在量が増大していることが示された。PuriとHebrokが解説で論じているように、これらの結果はヒトではまだ確認されていないが、これらのデータによって、β細胞の脱分化状態を治療で回復させることが2型糖尿病の発症予防に有効である可能性が提起される。
J. F. Foley, β Cells Lose Their Identity. Sci. Signal. 5, ec243 (2012).