◆ウイルスベクターによる遺伝子導入
ウイルスが元々持っている細胞進入機構を利用して細胞内に遺伝子を導入する方法です。それぞれのウイルスベクターは、細胞表面に存在する独自の受容体を介して細胞に感染し、効率よく遺伝子を発現する機構を有しています。近年、その導入効率の高さや、遺伝子導入様式の特性の点から、遺伝子導入実験に盛んに用いられるようになりました。
一般に用いられているウイルスベクターに、(1)アデノ随伴ウイルス(AAV)、(2)アデノウイルス、(3)レトロウイルス、(4)レンチウイルスなどがあります。ウイルスベクターは、リポフェクションで導入した遺伝子に比べ、ウイルスによってばらつきはあるものの、発現期間が長いため、継続して遺伝子の発現を見たい実験等に適しています。
(1)アデノ随伴ウイルス(AAV)は、分裂/非分裂細胞の両方に感染することができ、人の宿主細胞で維持され、持続性のある遺伝子導入が可能です。アデノ随伴ウイルスは、アデノウイルスやレトロウイルスに比べ、宿主細胞への免疫反応が低いため、遺伝子導入実験用で注目を集めています。
(2)アデノウイルスは、許容可能な細胞の宿主範囲が広く、多くのタイプ(複製および非複製の両方)の哺乳動物性細胞に導入して組換えタンパク質を高発現させることができます。また、リポフェクションでの感染率の低いセルラインへの遺伝子導入やタンパク質の発現に特に有用です。さらに、アデノウイルスは細胞に感染後、染色体外に残るため、宿主の遺伝子を活性化/不活性化しません。最近では、細胞内へRNAi を運ぶツールとしても用いられています。
(3)レトロウイルスは、分化細胞のゲノムに遺伝子を導入するのに効果的なツールとして用いられています。また、哺乳動物性細胞内での外来性遺伝子の発現に加えて、近年in vitro・in vivoの両方でターゲット遺伝子の発現を抑えるsiRNAの発現にも用いられています。
(4)レンチウイルスは、分裂細胞と非分裂細胞に感染し、目的の遺伝子を導入します(染色体内への組込み型)。水疱性口内炎ウイルス エンベロープG(VSV - G)タンパク質の偽型エンベロープによって宿主細胞の範囲が広く、神経細胞やリンパ球・マクロファージなどレトロウイルスベクターでは用いることのできなかった細胞で利用できます。また、レンチウイルスベクターは、毒性および免疫反応による干渉なくして、in vivo における脳・肝臓・筋肉・網膜に効果的に形質導入できることが報告されています。近年、レンチウイルスシステムは、多くのセルラインや初代培養細胞、in vitro とin vivo の両方へ効果的にsiRNAを導入するのに用いられています。
■各ウイルスベクターの比較
| アデノ随伴ウイルス(AAV) | アデノウイルス | レトロウイルス | レンチウイルス |
遺伝子発現 |
一過性または安定性 |
一過性 |
安定性 |
一過性または安定性 |
分裂細胞への感染 |
Yes |
Yes |
Yes |
Yes |
非分裂細胞への感染 |
Yes |
Yes |
No |
Yes |
ターゲット細胞ゲノムへのインテグレート |
No* |
No |
Yes |
Yes |
ターゲット細胞内の免疫応答 |
Very Low |
High |
Moderate |
Low |
相対的なウイルスの力価 |
XXX |
XXXX |
XX |
XXX |
相対的なトランスダクション効率 |
XXX |
XXXX |
XX |
XXX |
*ネイティブ AAV は、インテグレートが起きますが、リコンビナント AAV ではほとんど起こりません。
■一般的なウイルス遺伝子デリバリーのワークフロー
