■ タグ抗体とは?
生命科学研究やタンパク質実験における「タグ(Tag)」とは、遺伝子組換え技術を用いて標的タンパク質のN末端またはC末端に人工的に融合・付加されるペプチドやタンパク質の配列を指します。そして、この付加されたタグ配列を特異的に認識して結合する抗体のことをタグ抗体と呼びます。
標的タンパク質に対する特異的な一次抗体が存在しない場合や、ヒトやマウス以外のモデル生物(植物、魚類、両生類等)を用いた研究であっても、共通のタグを付加してタグ抗体を利用することで、目的タンパク質の発現確認、細胞内局在の観察、ならびに精製・検出を高感度かつ確実に行うことが可能です。
■ 実験目的に応じた主なタグの種類
タンパク質実験で利用されるタグは、その構造や役割によって主に以下のカテゴリに分類されます。
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ペプチド/エピトープタグ
His(6*His)、DYKDDDDK(FLAG®)、HA、Myc、V5、Spot、S1等の数個〜十数個の短いアミノ酸配列からなるタグです。分子量が非常に小さいため、標的タンパク質本来の構造や生理機能に与える影響を最小限に抑えながら、ウェスタンブロット(WB)や免疫沈降(IP)等の検出・精製実験に広く活用されます。
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蛍光観察用タンパク質タグ
GFP、RFP、mCherry、mNeonGreen等は、それ自体が特定の励起波長の光を受けることで蛍光シグナルを発するタンパク質タグです。蛍光顕微鏡を用いた細胞内での局在観察(IF/ICC)や生細胞内での動態解析、さらにはタンパク質間相互作用の分析等に最適です。
一方、HaloタグやSNAP/CLIPタグ等も蛍光イメージング目的で広く利用されますが、これらはタグ自体が蛍光を発するわけではなく、専用の蛍光色素標識リガンドと特異的に共有結合させることで観察可能になるシステムです。使用するリガンドを切り替えることで波長を自在に変更できる等、他の蛍光タンパク質とは異なるアプローチで蛍光解析を可能にします。
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可溶化タグ
GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)やMBP(マルトース結合タンパク質)、SUMO等の比較的大型のタンパク質タグです。大腸菌等の発現系において標的タンパク質が不溶化(凝集)するのを防ぎ、溶解性を高めて効率的なアフィニティ精製や検出を可能にします。
■ タグ抗体が研究で活用される背景
従来の抗体作製では、ターゲットタンパク質ごとに抗体を用意する必要があり、特異性の高い抗体の取得が困難なケースも少なくありませんでした。
タグ抗体を用いる手法は、既知のタグ配列に対する高感度・実績豊富な抗体をそのまま利用できるため、実験の再現性向上、抗体自体に対する検証工数の削減、市販されているHRP・蛍光標識済み製品による実験手順の簡略化に大きく貢献します。近年では、従来のIgG抗体に加えて、アルパカ由来のVHH抗体(NANOBODY®)を用いたアフィニティビーズ(例:GFP-Trap®等)等も登場しており、ウェスタンブロット(WB)、免疫組織化学染色(IHC)、免疫沈降(IP)、質量分析(MS)といった多様なアプリケーションにおいて、バックグラウンド(ノイズ)を抑えた解析が実現されています。
* Flag®(Anti-Flag®)は、Sigma-Aldrich(Merck)社の登録商標です。
* NANOBODY®は、Ablynx N.V.社の登録商標です。