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神経科学
シナプスの特殊化は逆向きに進行する

Neuroscience
Synapse Specification Goes Retro

Editor's Choice

Sci. Signal., 17 August 2010
Vol. 3, Issue 135, p. ec248
[DOI: 10.1126/scisignal.3135ec248]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

Sharmaらは、節前と節後の神経の間のシナプス形成における神経成長因子(NGF)の役割について検討した(Newbernらの文献も参照)。シナプトフィジン(シナプス前タンパク質)とMAGUK(シナプス後タンパク質)の免疫染色を行なったところ、NGF-/-Bax-/-マウスの上頚神経節(SCG)で、Bax-/-マ ウスに比べて特殊化したシナプス前部とシナプス後部構造(肥厚)が少ないことが示唆された。さらに、節後交感神経の培養からNGFを除去すると、 MAGUK陽性のシナプス後膜肥厚(PSD)の数が減少した。その一方で、マイクロ流体システムによって遠位軸索にNGFを選択的に付加するとMAGUK 陽性クラスター数が増加したが、細胞体や樹状突起に付加しても増加しなかった。この作用は、主として既存のPSD構成成分のクラスタリングに依存し、 PSD構成成分の新たな合成に依存するのではなかった。NGFとその受容体のひとつであるTrkAの輸送を可視化するために、著者らはFLAG標識した NGF受容体TrkA(TrkAFlag)を発現するマウスを用いた。このマウスの交感神経の遠位軸索にNGF を選択的に適用すると、Flag-TrkAを含むエンドソームが形成され、細胞体のPSD形成部位にまで逆行輸送された。NGFがPSD構造体を誘導する ためには、遠位軸索と細胞体/樹状突起の両方でTrkAのチロシンキナーゼ活性が必要であり、また細胞体/樹状突起のMAPKシグナル伝達と遠位軸索の PI3Kシグナルも必要であった。脳由来神経栄養因子(BDNF)-p75のシグナル伝達は、NGF-TrkAシグナル伝達に拮抗することができる。NGF-/-Bax-/-マウスのSCGとは異なり、p75-/-マ ウスのSCGは野生型マウスのそれよりも特殊化したシナプス前構造とシナプス後構造が多かった。一定時間NGFを枯渇させた後、BDNF中和抗体を細胞体 と樹状突起に付加してNGFで処理するとPSD構造体が増加したが、遠位軸索に付加しても増加しなかった。このように、逆向きの長距離のNGFシグナル伝 達が、SCGにおけるシナプス後構造を誘導する。

N. Sharma, C. D. Deppmann, A. W. Harrington, C. St. Hillaire, Z.-Y. Chen, F. S. Lee, D. D. Ginty, Long-distance control of synapse assembly by target-derived NGF. Neuron 67, 422-434 (2010). [PubMed]

J. M. Newbern, X. Li, W. D. Snider, Signaling endosomes trigger synapse assembly. Neuron 67, 352-354 (2010). [PubMed]

W. Wong, Synapse Specification Goes Retro. Sci. Signal. 3, ec248 (2010).

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2010年8月17日号

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