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妊娠糖尿病
インスリンがセロトニンの取り込みを促進する
Gestational Diabetes
Insulin Promotes Serotonin Uptake
Sci. Signal., 6 January 2015
Vol. 8, Issue 358, p. ec1
DOI: 10.1126/scisignal.aaa5978
Nancy R. Gough
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
Y. Li, C. Hadden, P. Singh, C. P. Mercado, P. Murphy, N. K. Dajani, C. L. Lowery, D. J. Roberts, L. Maroteaux, F. Kilic, GDM-associated insulin deficiency hinders the dissociation of SERT from ERp44 and down-regulates placental 5-HT uptake. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 111, E5697-E5705 (2014). [Abstract] [Full Text]
要約 妊娠糖尿病(GDM)は、胎盤など標的組織のインスリン感受性の低下を伴う一般的な妊娠合併症である。末梢組織、胎盤および発達中の胎児において、セロトニン(別名5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)は血管収縮剤として働く。子宮胎盤血のセロトニン濃度は、胎盤栄養膜細胞に局在しているSERTファミリーのセロトニントランスポーターにより制御されている。LiらはGDM患者の栄養膜細胞によるセロトニンの取り込みが、正常な妊娠患者由来の細胞に比べて少ないことを見いだした。フローサイトメトリーおよび表面ビオチン化アッセイから、GDM患者の栄養膜細胞の細胞膜においてSERTの存在量が低下していることが示された。ウェスタンブロットにより解析したとき、GDM患者の栄養膜細胞は2つの分子量のSERT、すなわち成熟した大きさと比較的小さいものを有していた。この小さい方は、タンパク質グリコシル化阻害剤に曝露された正常細胞で認められるSERTの大きさで、セレトニンの取り込みが低下することも示されているものに相当していた。これらの結果は、GDM患者の細胞ではSERTの成熟が損なわれていることを示唆していたことから、著者らは、小胞体内でSERTに結合するそのシャペロンERp44とSERTとの相互作用について検討した。免疫共沈降実験から、GDM患者の細胞では健康患者の細胞に比べてSERTとERp44の相互作用が亢進していることが示唆された。インスリン受容体の存在量は健康患者とGDM患者の細胞で同様であったものの、インスリン受容体のチロシンリン酸化はGDM患者の細胞で低下していた。さらに、健康患者の栄養膜細胞では、細胞膜でのSERT増加に相関した、インスリンに応じたセロトニン取込みの用量依存性の増加が認められたが、SERTのmRNA存在量に変化はなかった。健康患者の栄養膜細胞では、ERp44とSERTとの相互作用の低下をインスリンが刺激したが、GDM患者ではこれを認めなかった。このように、GDM合併症は一部、栄養膜細胞のインスリン反応性が低下し、その後にセロトニン濃度が変化し、胎盤を通る血流に影響することで生じる可能性がある。
N. R. Gough, Insulin Promotes Serotonin Uptake. Sci. Signal. 8, ec1 (2015).