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病原性抑制のためのクオラムセンシング

Quorum sensing to repress virulence

Editor's Choice

Sci. Signal. 16 May 2017:
Vol. 10, Issue 479, eaan6287
DOI: 10.1126/scisignal.aan6287

Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

Highlighted ArticlesS. Enomoto, A. Chari, A. L. Clayton, C. Dale, Quorum sensing attenuates virulence in Sodalis praecaptivus. Cell Host Microbe 21, 629-636.e5 (2017).
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R. V. M. Rio, Don't bite the hand that feeds you. Cell Host Microbe 21, 552-554 (2017).
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昆虫の内部共生体のクオラムセンシング系は、病原性遺伝子の発現を阻害することで、細菌による持続的感染の確立を可能にしている。

要約
細菌はバイオフィルムの形成や病原性因子の活性化など集団行動を調整するために、クオラムセンシング系を使用している。そのような系では、分泌された微生物分子が環境中で一定閾値を上回って蓄積されたときに集団反応を引き起こす。これにより、集団行動を支える十分数の細菌が確保される。クオラムに達したときにのみ病原性因子を産生する病原性細菌の例が多数ある。Enomotoらはグラナリアコクゾウムシの共生生物Sodalis praecaptivusにおいて、病原性因子の産生を刺激するのではなく抑制するクオラムセンシング系を同定した。このクオラムセンシング系を欠損するS. praecaptivus変異体は野生型細胞と比べ、培養系での増殖が不良であった。野生型細菌がゾウムシに感染したときはこの動物を死亡させないが、S. praecaptivusのクオラムセンシング変異体は宿主を死に至らしめた。著者らは、クオラムセンシング系により転写制御されている遺伝子を同定し、さらに抑制されたそれらの標的遺伝子には、殺虫毒素やプロテアーゼなどの病原性因子をコードする遺伝子が含まれることを見出した。これら一部の病原性因子の欠失は、S. praecaptivusクオラムセンシング変異体がゾウムシを死滅させる能力を低下させたことから、これらの因子を阻害できなかった場合は慢性感染を促進するというより、むしろ宿主を死亡させることを意味していた。ただし、殺虫毒素をコードする遺伝子の欠失が、ゾウムシへのS. praecaptivusの感染能を低下させたことは、少なくとも一部の病原性因子は最初の感染確立に必要であることを示している。著者らはツェツェバエの内部共生体である類縁種S. glossinidiusにおいて、類似のクオラムセンシング系を同定した。このことは、クオラムセンシングによる病原性因子の抑制は、宿主を殺さずに持続的な感染を引き起こすよう進化した細菌に、共通する特徴である可能性を示唆している。RioによるCommentaryでは、これらの知見の意義を、細菌と宿主の間の相利共生関係の進化というさらに大きい背景において考察している。

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2017年5月16日号

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