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新たなつながり:内皮細胞上のS1P1を理解し治療標的とする

New connections: From understanding to targeting S1P1 on endothelial cells

Editor's Choice

Sci. Signal. 15 Aug 2017:
Vol. 10, Issue 492, eaao6115
DOI: 10.1126/scisignal.aao6115

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

S. Galvani, M. Sanson, V. A. Blaho, S. L. Swendeman, H. Obinata, H. Conger, B. Dahlbäck, M. Kono, R. L.Proia, J. D. Smith, T. Hla, HDL-bound sphingosine 1-phosphate acts as a biased agonist for the endothelial cell receptor S1P1 to limit vascular inflammation. Sci. Signal. 8, ra79 (2015).
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S. L. Swendeman, Y. Xiong, A. Cantalupo, H. Yuan, N. Burg, Y. Hisano, A. Cartier, C. H. Liu, E. Engelbrecht,V. Blaho, Y. Zhang, K. Yanagida, S. Galvani, H. Obinata, J. E. Salmon, T. Sanchez, A. Di Lorenzo, T. Hla, An engineered S1P chaperone attenuates hypertension and ischemic injury. Sci. Signal. 10, eaal2722(2017).
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S1P受容体のS1P1が内皮細胞で特異的に活性化される機構の理解は、副作用のより少ない薬物の開発につながる可能性がある。

要約
脂質メディエーターのスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)は、アルブミンやリポタンパク質ApoM+HDLなど、多様なシャペロンタンパク質によって血中を輸送される。S1Pが内皮細胞上で受容体S1P1と結合すると、発達中の血管網が安定化し、血管新生が抑制され、血管透過性が低下する。今回、HLA研究所から出された2報の論文では、S1PのS1P1への結合が引き起こす特異的シグナル伝達の経路はS1Pシャペロン固有の性質によって決定されること、そして、このようなS1Pシャペロン固有の性質があることは、SIPを内皮細胞上のS1P1に選択的に標的化させるシャペロンを心血管疾患の治療に使用できる可能性があることを示す実証可能な証拠となっている。1報目の論文で、Galvaniらは、マウスの血管炎症とアテローム性動脈硬化がS1P1の活性化によって抑制されることを見出した。S1Pは、リポタンパク質ApoM+HDLと結合している状態では培養内皮細胞の炎症を抑制したが、アルブミンと結合している状態では抑制しなかった。このように、異なるシャペロンと結合したS1Pは、シャペロンごとに異なる「偏った(biased)」シグナル伝達経路を始動させた。このことが、一般に「善玉コレステロール」と呼ばれるHDLのアテローム性動脈硬化における保護作用にも寄与している可能性がある。しかし、HDL量を全体的に増加させても内皮細胞の炎症とアテローム性動脈硬化は抑制されず、ApoMはHDLと結合していない状態では不安定である。2報目の論文で、Swendemanらは、S1Pと結合し、内皮細胞で持続的にS1P1を活性化する、安定型のApoM(ApoM-Fc)を作製した。マウスをApoM-Fc-S1Pで処置したところ、アンジオテンシンIIによって誘発された高血圧が軽減され、実験的に誘発された心筋梗塞または脳卒中の予後が改善され、S1P1アゴニストの特徴であるリンパ球減少症の誘発は認められなかった。このように、シグナル伝達経路が細胞特異的または組織特異的に作動する機構を理解すれば、副作用のより少ない薬物のデザイン方法について洞察が得られる可能性がある。

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2017年8月15日号

Editor's Choice

新たなつながり:内皮細胞上のS1P1を理解し治療標的とする

Research Article

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Reviews

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