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膵がんの超抑制因子
A supersuppressor for pancreatic cancer
Sci. Signal. 24 Oct 2017:
Vol. 10, Issue 502, eaar2564
DOI: 10.1126/scisignal.aar2564
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
S. S. Mello, L. J. Valente, N. Raj, J. A. Seoane, B. M. Flowers, J. McClendon, K. T. Bieging-Rolett, J. Lee, D.Ivanochko, M. M. Kozak, D. T. Chang, T. A. Longacre, A. C. Koong, C. H. Arrowsmith, S. K. Kim, H. Vogel, L. D. Wood,R. H. Hruban, C. Curtis, L. D. Attardi, A p53 super-tumor suppressor reveals a tumor suppressive p53-Ptpn14-Yap axis in pancreatic cancer. Cancer Cell 32, 460-473.e6 (2017).
Google Scholar
Y. Aylon, M. Oren, Tumor suppression by p53: Bring in the Hippo! Cancer Cell 32, 397-399 (2017).
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p53は、膵がん発症の重大なメディエータであるYAPを阻害するホスファターゼを誘導するが、p53の変異によってこの誘導が亢進される。
要約
転写因子p53の変異や欠失は、多くのがん、なかでも膵管腺がん(PDAC)に関連する。野生型p53によるシグナル伝達を回復または模倣する治療法によって、腫瘍の増殖と増悪を防げる可能性がある。Melloらは、「超腫瘍抑制因子」となるp53変異体を作成した(Aylon and Orenも参照)。KRASに誘発されるPDACを遺伝的に発症しやすいマウスにおいて、p53に複数ある転写活性化ドメインの1つ(TAD53,54)を変異させると、腫瘍の増殖が阻止された。マウス組織のクロマチン結合と遺伝子発現の解析では、TAD53,54変異型p53によって、ホスファターゼPTPN14をコードする遺伝子の転写が亢進されることが明らかになった。これまでの報告では、多様ながんにおいて、PTPN14(細胞密度の上昇に伴ってPTPN14量も増加する)が、転写補助因子YAPを細胞質に隔離(し阻害)することによって、あるいは転移促進因子の分泌を阻害することによって、転移を抑制する役割を担っていることが同定されている。YAPは、PDACの増悪に不可欠な因子である。現に、p53(TAD53,54)に誘導されたPTPN14は、PTPN14のホスファターゼ活性に依存する形ではなく、YAPを細胞質に再局在させることによって、PDAC細胞の腫瘍抑制を媒介した。患者組織の組織学的解析では、p53-PTPN14-YAP軸がヒト膵がんにおいて保存された腫瘍抑制機構であることが示され、この軸を標的とした治療法を開発すれば、PDAC患者におけるYAP駆動型の疾患増悪を阻止できる可能性が示唆された。さらに、他の変異や制御標的を介してp53を活性化しようとする従来の試みとは異なり、マウスでTAD53,54変異型p53を発現させても、有害作用はみられなかった。このように、今回の知見によって、われわれはp53を標的とするがん治療法に一歩近づけた可能性がある。