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新たなつながり:アルツハイマー病の病理学におけるアミロイドβ
New connections: Amyloid-β in the pathology of Alzheimer’s disease
Sci. Signal. 20 Mar 2018:
Vol. 11, Issue 522, eaat6003
DOI: 10.1126/scisignal.aat6003
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
L. K. Ferrarelli, New connections: Amyloid-β, calcium, and the synapse. Sci. Signal. 10, eaao3024 (2017).
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N. R. Stallings, M. A. O'Neal, J. Hu, E. T. Kavalali, I. Bezprozvanny, J. S. Malter, Pin1 mediates Aβ42-induced dendritic spine loss. Sci. Signal. 11, eaap8734 (2018).
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T. Sen, P. Saha, N. Sen, Nitrosylation of GAPDH augments pathological tau acetylation upon exposure to amyloid-β. Sci. Signal. 11, eaao6765 (2018).
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今週号のScience Signalingに掲載された2件の研究では、アルツハイマー病のマウスモデルにおいて、アミロイドβが多様な病理学的機構が引き起こす仕組みを同定している。
要約
アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知障害と認知症を特徴とする複合神経変性疾患である。ADの原因は明らかではないが、AD患者の脳内では、タンパク質アミロイドβ(Aβ)のプラーク形成(局所的凝集)のほか、タウタンパク質のアセチル化と凝集、プロリルイソメラーゼPin1の喪失が高頻度で認められる。Science Signalingに掲載された以前の研究では、認知症の根底にある、ニューロンのカルシウム保持量の増加によってAβがシナプス機能を障害する仕組みが明らかにされた(Ferrarelli参照)。今週号のScience Signalingでは、Stallingsらが、Aβに曝露されたニューロン中のカルシウム量の増加が、ホスファターゼであるカルシニューリンを刺激することによって、Pin1活性の喪失を引き起こすことを見出した。Pin1は多数のタンパク質、なかでもニューロンのシナプス後機能に関連するタンパク質の活性を調節しており、シナプス機能は樹状突起スパインと呼ばれる構造の成熟に決定的に依存している。カルシニューリンはPin1を脱リン酸化し、不活性化することで、ニューロンの樹状突起スパインの成熟を喪失させた。カルシニューリン阻害薬であり、現在、臓器移植の拒絶反応の予防に用いられるタクロリムスでマウスを処理すると、Aβに誘導される樹状突起スパインの喪失が予防された。また、今週号のScience Signalingでは、Senらが、ADに関連するシナプス障害と認知障害の根底にある機構において、Aβ、タウ凝集体、ニトロソ化ストレスを関連づけた。マウスもしくは培養の皮質ニューロンにおいて、Aβへの曝露は一酸化窒素の産生を誘導し、一酸化窒素は解糖系酵素GAPDHのニトロシル化とその後のアセチラーゼp300の活性化およびSIRT1の不活性化を促進し、これらが合わさって、タウのアセチル化とその後の凝集を促進した。GAPDHのニトロシル化の遮断薬であり、現在、筋ジストロフィーの治療薬としての使用が検証されているomigapilでマウスを処理すると、脳内でAβに誘導されるタウのアセチル化と凝集が減少し、これらのマウスの学習検査と記憶検査の成績が改善された。これらの知見は、ADに共通してみられるいくつかの表現型を関連づけ、Aβによる詳細な病理学的機構を明らかにしている。さらに、すでに利用可能な薬物を別の目的で使用する機会も含め、AD患者の治療につながる可能性のある新たな標的を同定している。