嘔吐とβ細胞死からの保護

Protection from vomiting and β-cell death

Editor's Choice

Sci. Signal. 03 Mar 2020:
Vol. 13, Issue 621, eabb4981
DOI: 10.1126/scisignal.abb4981

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

T. Borner, E. D. Shaulson, M. Y. Ghidewon, A. B. Barnett, C. C. Horn, R. P. Doyle, H. J. Grill, M. R. Hayes, B. C. De Jonghe, GDF15 induces anorexia through nausea and emesis. Cell Metab. 31, 351-362.e5 (2020). Google Scholar

E. S. Nakayasu, F. Syed, S. A. Tersey, M. A. Gritsenko, H. D. Mitchell, C. Y. Chan, E. Dirice, J.-V. Turatsinze, Y. Cui,R. N. Kulkarni, D. L. Eizirik, W.-J. Qian, B. M. Webb-Robertson, C. Evans-Molina, R. G. Mirmira, T. O. Metz,Comprehensive proteomics analysis of stressed human islets identifies GDF15 as a target for type 1 diabetes intervention. Cell Metab. 31, 363-374.e6 (2020). Google Scholar

嘔吐、および炎症により誘発される膵臓β細胞死におけるサイトカインGDF15の役割が解明される。

要約

増殖分化因子15(GDF15)は広く分布しているサイトカインである。対をなす2本の論文で、2つの異なる系におけるGDF15の役割が探究された。GDF15とその受容体GFRAL-RET(GDNF family receptor α-like:GFRAL、GDNFファミリー受容体α様)は抗肥満治療の標的として提唱されており、GFRAL欠損マウスは催吐剤(嘔吐を引き起こす物質)である化学療法薬シスプラチンで処置しても食欲不振や体重減少を呈さない。Bornerらは、GDF15の食欲抑制作用と催吐作用との関連について調べた。そして、シスプラチンを注射されたマウスでは、肝臓で産生されるGDF15の血中濃度が上昇し、脳内のGFRAL陽性ニューロンが活性化されることを明らかにした。ラットの脳室内にGDF15を注入すると、食欲不振と、悪心の代替指標行動が誘発された。セロトニン受容体拮抗薬オンダンセトロンは、シスプラチンを投与されている患者に対してシスプラチンの催吐作用を抑えるために投与される。ところが、オンダンセトロンを投与すると食欲不振は抑制されたが、悪心の代替指標行動は抑制されなかった。高脂肪ショ糖食が原因で肥満状態にあるラットにGDF15を中枢投与または全身投与すると、食餌摂取量の減少に先んじて悪心の代替指標行動が出現した。ジャコウネズミにGDF15を注射すると嘔吐が誘発された。また、GDF15で処置されたジャコウネズミでは食餌摂取量が減少し、体重が減少した。これらの結果は、GFRALの遮断が抗催吐治療になりうることと、GFRAL作動薬は悪心を誘発することが予測されるため、望ましい抗肥満治療薬ではない可能性があることを示している。

2本目の論文ではNakayasuらが、1型糖尿病を悪化させる炎症シグナルによって制御されるサイトカインを探索した。著者らは、非糖尿病の死体ドナー由来の膵島を炎症性サイトカインであるインターロイキン1β(IL-1β)とIFN-γで処置した。処置した膵島のプロテオミクス解析では、IL-1βとIFN-γによってmRNAからの翻訳を遮断されることで抑制されるサイトカインとしてGDF15が同定された。IL-1βとIFN-γは、ヒトβ細胞株EndoC-βH1とマウスβ細胞株MIN6でGDF15量を減少させた。さらに、自己免疫性糖尿病モデルである非肥満糖尿病(NOD)マウスでは、膵島炎(膵臓への免疫細胞浸潤)を有するマウスでGDF15量が減少していた。EndoC-βH1細胞、MIN6細胞、ヒト膵島をGDF15で処置すると、IL-1βとIFN-γによって引き起こされる細胞死が減少し、高血糖症を発症する前にNODマウスをGDF15で治療すると、膵島炎が抑制され、糖尿病の発症率が低下した。1型糖尿病(T1D)のドナー由来の膵臓では、正常なドナー由来の膵臓やT2Dのドナー由来の膵臓に比べて、GDF15タンパク質量が減少していた。これらの結果は、GDF15が炎症によって誘導される細胞死から膵臓β細胞を保護する因子であり、T1Dの悪化を制限するための標的になりうることを示している。

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2020年3月3日号

Editor's Choice

嘔吐とβ細胞死からの保護

Research Article

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