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ミトコンドリアの損傷を感知
Sensing mitochondrial damage
Sci. Signal. 23 Mar 2021:
Vol. 14, Issue 675, eabi6106
DOI: 10.1126/scisignal.abi6106
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: jfoley@aaas.org
M. Tigano, D. C. Vargas, S. Tremblay-Belzile, Y. Fu, A. Sfeir, Nuclear sensing of breaks in mitochondrial DNA enhances immune surveillance. Nature 591, 477-481 (2021).
Google Scholar
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33627873/ [PubMed]
N. U. Naresh, C. M. Haynes, Breaks in mitochondrial DNA rig the immune response. Nature 591, 372-373 (2021).
Google Scholar
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33627860/ [PubMed]
ミトコンドリアDNAの切断によって生じるミトコンドリアRNAのサイトゾルでの感知が、I型インターフェロン応答を引き起こす
要約
ミトコンドリアは、細胞代謝に中心的な役割を果たしている膜結合型の細胞小器官であるが、サイトゾル中の核酸感知のためのプラットフォームとしての機能も果たしている。ミトコンドリアには、代謝に関わる遺伝子産物をコードするミトコンドリアDNA(mtDNA)が数コピー含まれている。化学療法剤および電離放射線は、ミトコンドリアの機能不全をもたらすmtDNAの二重鎖切断(mtDSB)を引き起こす可能性がある。Tiganoらは、ヒト上皮細胞においてミトコンドリアを標的とするTALENにより特定の遺伝子座にmtDSBを生じさせると、I型インターフェロン(IFN)応答および抗ウイルス防御に関与する多くの遺伝子が誘導されることを見出した。mtDSBを有するミトコンドリアは正常に機能するようであったが、BAXおよびBAKを含むポアの形成により脱漏(herniation)が引き起こされていた。mtDSBを有する細胞において、サイトゾルRNAを感知する構成要素(RIG-IおよびMAVS)の枯渇によってIFN誘導遺伝子(ISG)の発現は低下したが、DNA感知機構の構成要素の枯渇ではISGの発現は低下しなかった。mtDNAが豊富なMCF10A細胞を電離放射線で処理することでmtDNA損傷およびISGの発現が生じたが、mtDNA欠失細胞の照射によるこの応答は顕著に低いものであった。さらに、BAXおよびBAKを欠損させたときも、照射細胞におけるISG発現は低下していた。細胞成分分画実験から、照射後の細胞の細胞質分画にはミトコンドリアRNA(mtRNA)が豊富に含まれることが示され、また近接ラベリングアッセイからはmtRNAがRIG-Iの近傍に局在化していることが明らかにされた。まとめるとこれらのデータは、遺伝毒性ストレスがサイトゾルのセンサーにmtRNAを曝露させ、I型IFN応答を引き起こすことを示唆している。NareshとHaynesがCommentaryで論じているように、これと同様の経路が自己免疫にも関与しているか否かを明らかにすることが興味深いと思われる。