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損傷ミトコンドリアを取り除く
Letting go of damaged mitochondria
SCIENCE SIGNALING
3 May 2022 Vol 15, Issue 732
DOI: 10.1126/scisignal.abq7456
WEI WONG
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: wwong@aaas.org
M. Rosina, V. Ceci, R. Turchi, L. Chuan, N. Borcherding, F. Sciarretta, M. Sánchez-Díaz, F. Tortolici, K. Karlinsey, V. Chiurchiù, C. Fuoco, R. Giwa, R. L. Field, M. Audano, S. Arena, A. Palma, F. Riccio, F. Shamsi, G. Renzone, M. Verri, A. Crescenzi, S. Rizza, F. Faienza, G. Filomeni, S. Kooijman, S. Rufini, A. A. F. de Vries, A. Scaloni, N. Mitro, Y.-H. Tseng, A. Hidalgo, B. Zhou, J. R. Brestoff, K. Aquilano, D. Lettieri-Barbato, Ejection of damaged mitochondria and their removal by macrophages ensure efficient thermogenesis in brown adipose tissue. Cell Metab. 34, 533-548.e12 (2022).
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熱産生には褐色脂肪細胞によって放出された損傷ミトコンドリアがマクロファージによって消化される必要がある。
褐色脂肪細胞は、豊富に貯蔵しているミトコンドリアを用いて熱産生と呼ばれる過程で熱を生成することによって体温を調節する。Rosinaらは、効率的な熱産生には、褐色脂肪細胞から放出された細胞外小胞内の損傷ミトコンドリアが褐色脂肪組織(BAT)マクロファージによって分解される必要があることを見出した。プロテオミクス解析では、マウスを寒冷曝露させると、BAT由来の細胞外小胞中にピルビン酸脱水素酵素E1サブユニットβ(PDHβ)などのミトコンドリアタンパク質量が増加することが明らかになった。同様の結果は、初代培養マウス褐色脂肪細胞または褐色脂肪細胞株を寒冷曝露させた場合、あるいはβ3アドレナリン受容体作動薬CL316,243(寒冷曝露を模倣する)またはミトコンドリア脱共役剤FCCP(ミトコンドリアを損傷させる)で処理した場合にも得られた。透過型電子顕微鏡観察では、寒冷曝露マウス由来のBATにおいて、ミトコンドリア表面でミトコンドリアの内膜と外膜からなる小胞の芽が形成されることが示された。熱産生は、ミトコンドリアタンパク質に酸化的損傷を引き起こす。CL316,243またはFCCPで処理された褐色脂肪細胞によって生成された細胞外小胞ではPDHβなどのミトコンドリアタンパク質の酸化量が増加していたが、この作用は抗酸化剤NAC、または活性酸素消去酵素SOD2の過剰発現によって回復した。褐色脂肪細胞によって細胞外小胞が再取り込みされると、AMPK活性に依存する形で、小胞を取り込んだ細胞のPPARγに媒介される褐色脂肪細胞遺伝子の発現とミトコンドリア活性が低下した。マウスを寒冷曝露させると、循環炎症性単球から派生したBATマクロファージの数が増加した。BAT由来の細胞外小胞をマウスに注入すると、BATマクロファージによって取り込まれ、貪食されたこれらの細胞外小胞はマクロファージ内でリソソームと共局在した。マウスにおいてBATマクロファージを欠乏させると、発熱性遺伝子発現が減少し、寒冷耐性が低下し、BATの細胞外小胞の内容物が増加した。このように褐色脂肪細胞は、細胞外小胞を介して損傷ミトコンドリアタンパク質を放出し、それをマクロファージが分解することによって、発熱性機能を維持している。