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ナロキソンを増強
Enhancing naloxone
SCIENCE SIGNALING
30 Jul 2024 Vol 17, Issue 847
[DOI: 10.1126/scisignal.adr9944]
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: jfoley@aaas.org
E. S. O'Brien, V. A. Rangari, A. El Daibani, S. O. Eans, H. R. Hammond, E. White, H. Wang, Y. Shiimura, K. K. Kumar, Q. Jiang, K. Appourchaux, W. Huang, C. Zhang, B. J. Kennedy, J. M. Mathiesen, T. Che, J. P. McLaughlin, S. Majumdar, B. K. Kobilka, A μ-opioid receptor modulator that works cooperatively with naloxone. Nature 631, 686-693 (2024).
C. M. Cahill, Opioid crisis: Compound opens up potential strategy to tackle overdoses. Nature 631, 512-513 (2024).
μ—オピオイド受容体の負のアロステリック調節因子がナロキソンの効果を増強する。
モルヒネやオキシコドンなどのμ-オピオイド受容体(MOR)アゴニストは急性痛を軽減するものの、中毒や呼吸抑制など重症の副作用も引き起こす。MORアンタゴニストであるナロキソンはオピオイド過剰摂取の非常に有効な治療薬であるが、フェンタニルなど非常に強力なオピオイドの作用を弱めるためには、しばしば反復投与が必要である。O'Brienらは、MORの負のアロステリック調節因子(NAM)として作用しナロキソンの効果を増強する化合物を検索するため、DNAコード化化合物ライブラリーをスクリーニングした。NAMは、受容体のリガンド結合部位(オルソステリック部位)に結合するのではなく、異なる部位に結合して受容体の活性をアロステリックに阻害する。著者らは、活性型Gタンパク質結合MORに対する不活性型のナロキソン結合MORのカウンタースクリーニングを実施し、その結果、「化合物368」を見いだした。これは、in vitroおよび細胞においてメチオニン(met)-エンケファリン誘導性のGαi/o Gタンパク質のMOR活性化を阻害した。さらに化合物368は、MORに対するナロキソンの親和性を高め、ナロキソン存在下でのアゴニスト依存的活性化を一層強力に阻害した。構造解析により、化合物368は、ナロキソンが結合するオルソステリック部位付近のMORに結合し、しかもナロキソンと直接相互作用して受容体からの解離速度を抑えていた。さらに化合物368は、MORの細胞外領域の不活性型のコンホメーションを安定化した。マウスにおいて化合物368は、低用量ナロキソンによるモルヒネ誘発性抗侵害受容効果の反転作用およびモルヒネ誘導性呼吸抑制の阻害作用を増強した。さらに化合物368はマウスにおいて、ナロキソンによるフェンタニル誘導性抗侵害受容効果の逆転作用を改善した。まとめるとこれらのデータは、化合物368はNAMとして作用し、アゴニスト誘導性MOR活性のナロキソンによる阻害作用を増強することを示唆している。CahillがCommentaryで述べているとおり、そのようなNAMがヒトにおいてナロキソンの抗力を増強し作用時間を延長できるか否かを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。