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グリアのタウのゴルディロックス効果
The Goldilocks effect of glial tau
SCIENCE SIGNALING
15 Oct 2024 Vol 17, Issue 858
[DOI: 10.1126/scisignal.adt7163]
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: lferrare@aaas.org
L. D. Goodman, I. Ralhan, X. Li, S. Lu, M. J. Moulton, Y.-J. Park, P. Zhao, O. Kanca, Z. S. G. Taleghani, J. Jacquemyn, J. M. Shulman, K. Ando, K. Sun, M. S. Ioannou, H. J. Bellen, Tau is required for glial lipid droplet formation and resistance to neuronal oxidative stress. Nat. Neurosci. 27, 1918-1933 (2024).
グリア細胞内のタウは、多すぎても少なすぎても、神経毒性をもつ酸化ストレスの蓄積を可能にする。
タウは濡れ衣を着せられている。脳内にタウが凝集すると、さまざまな神経変性疾患における認知機能低下と脳萎縮の原因となる神経原線維変化が引き起こされる。しかし、タウには正常な機能もある。タウが微小管を安定化させることは重要であり、これがニューロンの機能的統合性を支えている。しかしながら、ニューロンは脳に存在する細胞のごく一部にすぎない。Goodmanらは、グリア細胞内のタウが、抗酸化活性を仲介し、脳の健康を支えていることを見出した。ニューロンは酸化ストレスに対してとくに脆弱であり、酸化ストレスは正常な細胞活動の副産物(ROSと呼ばれる)によって引き起こされ、加齢や感染、高脂肪の食事、環境有害物質によって増加する。グリア細胞は、過酸化脂質を取り込み、それらを処理して脂肪滴に変化させて隔離または代謝することにより、酸化ストレスを弱める手助けをする。脳または網膜におけるタウ操作のハエモデルにおいてニューロンのROS産生を遺伝学的に誘導し、著者らは、とくにグリアのタウが、グリア細胞のROS捕捉機能に重要であることを見出した。グリアのタウを欠損したハエでは、グリアの脂肪滴が少なく、周囲組織内の過酸化脂質量が増加するとともに、進行性のグリア細胞変性、運動機能低下、睡眠調節障害、寿命の短縮が認められたが、ニューロンのタウを欠損したハエではこれらの変化は認められなかった。逆に、成虫のハエにおいて野生型または変異型ヒトタウをグリアに(ただしここでもニューロンではなく)蓄積させた場合にも、グリア細胞内のROS誘導性の脂肪滴形成が著しく抑制され、組織の過酸化脂質量が増加した。注目すべきことに、グリアにおけるタウの役割は、微小管安定化剤として確立された機能によって部分的に仲介されており、その役割は初代培養ラットアストロサイトおよびヒトオリゴデンドログリア細胞において保存されていた。ハエおよびラットアストロサイトの両方で、ヒトタウ過剰発現のグリアへの影響は、抗酸化剤であるN-アセチルシステインアミド(NACA)の投与によって打ち消された。したがって、神経毒性のあるROS蓄積を軽減するためには、(多すぎないくらいの)タウがグリア細胞内に必要である。これらの結果は、細胞特異的なタウの生理学的および病理学的寄与をさらに検討し、タウ関連疾患に対して効果的な治療を開発するための道も開いている。