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コレステロール感知がベジタリアンに
Cholesterol sensing goes vegetarian
SCIENCE SIGNALING
12 Nov 2024 Vol 17, Issue 862
[DOI: 10.1126/scisignal.adu4398]
John F. Foley
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: jfoley@aaas.org
C. Bayly-Jones, C. J. Lupton, A. C. Keen, S. Dong, C. Mastos, W. Luo, C. Qian, G. D. Jones, H. Venugopal, Y.-G. Chang, R. J. Clarke, M. L. Halls, A. M. Ellisdon, LYCHOS is a human hybrid of a plant-like PIN transporter and a GPCR. Nature 634, 1238-1244 (2024).
コレステロール感知タンパク質LYCHOSは、GPCRと植物様輸送タンパク質のハイブリッドである。
LYCHOS(別名、GPR155)は、コレステロールセンサーとして働き、機構的ラパマイシン標的タンパク質複合体1(mTORC1)を活性化して細胞増殖を誘導する、リソソーム膜貫通タンパク質である。細胞内のコレステロールが豊富な場合はコレステロールがLYCHOSのN末端に結合し、それによってGATOR1を隔離して、このタンパク質複合体によるmTORC1活性阻害が抑制される。Bayly-Jonesらは、LYCHOSが当初Gタンパク質共役受容体(GPCR)として分類されていたことに注目し(ただし、LYCHOSには既知のリガンドもGPCR様機能もない)、その構造をクライオ電子顕微鏡により決定した。その結果、LYCHOSには、ホモ二量体として会合し、リガンドまたはGタンパク質と結合を欠く中心GPCRドメインと融合している、N末端の輸送体様ドメインが含まれていることが確認された。構造類似性解析から、このLYCHOSの輸送体様ドメインは、ヒトの輸送体タンパク質よりも、オーキシン(ホルモン)を輸送する植物由来のPIN輸送体と類縁性が高いことが示された。また表面プラズモン共鳴解析から、LYCHOSはインドール-3-酢酸(IAA)として知られるオーキシンの一種と結合するが、その親和性は、植物の輸送体PIN8との親和性と比べて低いことが明らかにされた。ただし、電気生理学的実験からは、LYCHOSが遺伝子導入細胞内にIAAを輸送できないことが示された。IAA様化合物はマイクロバイオームにより生成されることから、さらなる試験によって、LYCHOSにより輸送される物質が明らかになると考えられる。構造解析からは、コレステロールとLYCHOSの結合は、GPCRと輸送体ドメインの間で保存されているコレステロール結合モチーフにおいて生じ、再構成を引き起こしていることが示唆された。機能活性およびタンパク質相互作用試験から、LYCHOSがコレステロールを感知し、その後GATOR1複合体と相互作用して結果的にmTORC1活性の増強に至るためには、LYCHOSの輸送ポケットが必要であることが明らかにされた。以上をまとめるとこれらの知見から、LYCHOSがいかにしてコレステロールを感知して細胞増殖を誘導しているのかという構造的な説明が得られ、さらには、LYCHOSが、治療的にmTORC1活性を調節する標的となりえることが示された。