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HSVと2つのタウの物語
HSV and a tale of two taus
SCIENCE SIGNALING
14 Jan 2025 Vol 18, Issue 869
[DOI: 10.1126/scisignal.adv8245]
Leslie K. Ferrarelli
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: lferrare@aaas.org
D. M. Cairns, B. M. Smiley, J. A. Smiley, Y. Khorsandian, M. Kelly, R. F. Itzhaki, D. L. Kaplan, Repetitive injury induces phenotypes associated with Alzheimer's disease by reactivating HSV-1 in a human brain tissue model. Sci. Signal. 18, eado6430 (2025).
V. R. Hyde, C. Zhou, J. R. Fernandez, K. Chatterjee, P. Ramakrishna, A. Lin, G. W. Fisher, O. T. Çeliker, J. Caldwell, O. Bender, P. J. Sauer, J. Lugo-Martinez, D. Z. Bar, L. D'Aiuto, O. A. Shemesh, Anti-herpetic tau preserves neurons via the cGAS-STING-TBK1 pathway in Alzheimer's disease. Cell Rep. 10.1016/j.celrep.2024.115109, (2025).
タウは脳内でHSV-1を取り巻いて凝集するが、これは病的なものか、免疫応答の一部か、それともその両方か?
リン酸化タウタンパク質の凝集は脳内の神経変性に寄与する。このような凝集は、活動性単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が存在している患者と同様に、アルツハイマー病患者において多く認められる。2つの研究から、脳組織内のタウ凝集が活動性HSV-1感染により誘導されることが明らかになった。Cairnsらは以前本誌において、3次元脳組織モデルでは、ヒトにおける繰り返しの軽度脳震盪を模倣した反復性の機械的損傷に対する炎症応答によって、潜伏HSV-1が再活性化されることを明らかにした。HSV-1の活性化はさらに、炎症性のグリア細胞活性化、βアミロイドの凝集、およびタウのリン酸化を誘導した。HSV-1の感染および繰り返しの頭部損傷はいずれもアルツハイマー病の独立したリスク因子であり、これらの知見はそれらに関連性があることを示している。さらにこれらの知見は、活性化されたHSV-1が神経病態の引き金となる可能性も示唆している。ただしHydeらが行なった研究は類似した出発点から始まりながらも、この現象におけるタウの役割について異なる提言をするに至っている。つまり著者らは、ヒト脳組織内ではアルツハイマー病の進展とともにHSV-1調節性タンパク質ICP27の発現が亢進し、さらに(Cairnsらが認めたことと同様に)脳組織オルガノイドではHSV-1感染によりタウのリン酸化が誘導されたことを見いだした。ただし著者らは、ミクログリア内でリン酸化タウがICP27と共局在していること、そのリン酸化が自然免疫と関連するcGAS-STING経路により媒介されること、しかも、既知のタウリン酸化キナーゼを阻害するとウイルス感染が増大して神経細胞の生存率が低下することも見いだした。これらの知見は、脳内のタウのリン酸化が、感染に対する免疫応答に直接的役割を果たしていることを示唆している。いずれの研究も、HSV-1とアルツハイマー病の特徴との間に興味深い関連性を示し、この疾患の感染症性の仮説、すなわち、われわれが病的なものと考えているタウおよびその他の特徴はそもそも正常で神経保護的な抗微生物性応答であるという仮説を補強している。これらの研究はさらに、まだ謎に包まれている、脳の健康および疾病状態におけるタウの役割にも光を当てている。