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酔いつぶれるとよく眠れない
Poor sleep for pass-out drunks
SCIENCE SIGNALING
1 Apr 2025 Vol 18, Issue 880
DOI: 10.1126/scisignal.adx7187
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA. Email: avanhook@aaas.org
M. M. Chvilicek, I. Titos, C. B. Merrill, P. N. Cummins-Beebee, J. D. Chen, A. R. Rodan, A. Rothenfluh, Alcohol induces long-lasting sleep deficits in Drosophila via subsets of cholinergic neurons. Curr. Biol. 35, 1033–1046 (2025).
B. van Swinderen, Alcohol use: Passing out has long-term effects on sleep. Curr. Biol. 35, R191–R193 (2025).
エタノールは、コリン作動性ニューロンを阻害することによって、ショウジョウバエの睡眠を妨げる。
エタノールは眠気を引き起こすが、睡眠を妨げもする。アルコール使用障害の患者では、アルコール摂取の停止後数週間にわたって睡眠不足が持続することがある。時折または少量しか飲酒しない人であっても、就寝の数時間前にアルコールを摂取すると睡眠の質が低下する。ヒトと同様に、ショウジョウバエ(キイロショウジョウバエ[Drosophila melanogaster])は、低用量のエタノールに反応して活動が亢進するが、高用量のアルコールにさらされると意識を失う(倒れて起き上がれない)。Chvilicekらは、ショウジョウバエに鎮静用量のエタノール蒸気を1回投与すると、ハエが急性作用から回復し、エタノールが完全に代謝された後の数日間、睡眠時間が減少し、睡眠の質が低下することを見出した。一方、ハエに活動亢進を引き起こす低用量のエタノールを投与したとき、2日間に低用量を複数回投与した場合であっても、睡眠への影響はなかった。コリン作動性もしくはグルタミン酸作動性ニューロンの部分的阻害、またはGABA作動性ニューロンの部分的活性化は、低用量のエタノールと相乗的に作用し、鎮静をもたらしたが、睡眠不足が認められたのはコリン作動性ニューロンを阻害した場合のみであった。同様に、鎮静用量のエタノールにより引き起こされる睡眠不足は、意思決定と行動可塑性に関与する脳の領域に存在するコリン作動性ニューロンサブセットの阻害に依存した。コリン作動性ニューロンは哺乳類の睡眠にも影響を及ぼすことから、これらの結果は、エタノールによるコリン作動性ニューロンの一過性の阻害が、ヒトの睡眠に長期的な影響を及ぼす可能性があることを示唆している。また、コリン作動性ニューロンは、哺乳類におけるアルコール探索行動やアルコール性認知障害に寄与することから、コリン作動性回路が、アルコールに対する脳の反応において重要な役割を担うという考えがさらに支持される。van Swinderenによる解説記事では、アルコールにより誘発される睡眠の変化が、脳の習慣形成に抵抗する能力を低下させ、それによって慢性アルコール摂取を促進する可能性が提起されている。