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エストロゲン駆動性の腎臓の保護
Estrogen-powered kidney protection
SCIENCE SIGNALING
26 Aug 2025 Vol 18, Issue 901
DOI: 10.1126/scisignal.aeb6175
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA.
Corresponding author. Email: avanhook@aaas.org
W. Tonnus, F. Maremonti, S. Gavali, M. N. Schlecht, F. Gembardt, A. Belavgeni, N. Leinung, K. Flade, N. Bethe, S. Traikov, A. Haag, D. Schilling, S. Penkov, M. Mallais, C. Gaillet, C. Meyer, M. Katebi, A. Ray, L. M. S. Gerhardt, A. Brucker, J. N. Becker, M. Tmava, L. Schlicker, A. Schulze, N. Himmerkus, A. Shevchenko, M. Peitzsch, U. Barayeu, S. Nasi, J. Putz, K. S. Korach, J. Neugarten, L. Golestaneh, C. Hugo, J. U. Becker, J. M. Weinberg, S. Lorenz, B. Proneth, M. Conrad, E. Wolf, B. Plietker, R. Rodriguez, D. A. Pratt, T. P. Dick, M. Fedorova, S. R. Bornstein, A. Linkermann, Multiple oestradiol functions inhibit ferroptosis and acute kidney injury. Nature 10.1038/s41586-025-09389-x (2025).
エストロゲンはゲノム機構と非ゲノム機構の両方を介して腎障害から保護している。
閉経前女性は男性や閉経後女性と比べて、腎尿細管フェロトーシスおよびネフロン喪失を特徴とする急性腎障害(AKI)になりにくい。そこでTonnusらは、虚血再灌流障害(IRI)後の雌マウスにおけるエストロゲンによる腎尿細管細胞フェロトーシスの抑制を通じて、2つの機構を明らかにした。雄マウスおよび卵巣摘出雌マウスにおいて、腎臓のIRIは無傷の雌と比較してより強い尿細管フェロトーシスを誘導した。また、フェロトーシスの薬理学的阻害剤で処理したとき、雄マウスでは腎障害が軽減されたが、雌マウスでは軽減されなかった。17β-エストラジオールの2つのヒドロキシ化誘導体である2OH-E2および4OH-E2は、フェロトーシスの薬理学的誘導から培養細胞を保護し、in vitroにおいてラジカル捕捉性の抗酸化物質として働き、雌マウスの腎尿細管において豊富に存在していた。IRI後のマウスから摘出した腎尿細管において、2OH-E2は細胞損傷および細胞死から雄マウスの組織を保護したが、雌マウスの組織ではさらなる保護は認められなかった。エストロゲンのゲノム作用もその防御効果に寄与していた。これは、細胞内17β-エストラジオール受容体ESR1を欠損している雌マウスでは野生型雌マウスと比べ、腎臓のIRIに対して強い腎尿細管のフェロトーシスおよび腎障害が認められたためである。ESR1を介したエストロゲンのゲノムシグナル伝達は、抗フェロトーシス作用をもつ内因性分子GSSHの代謝回転と、過酸化の基質でありフェロトーシスへの感受性を高めるエーテル脂質の生合成という両方を抑制した。雄マウスと卵巣摘出雌マウスを用いた実験、ならびに男性と閉経前および閉経後の女性患者からの腎生検を用いた実験の結果は、男性および閉経後の女性でこのようなエストロゲンの防御的ゲノム作用が認められないことと一致していた。このように、エストロゲンは非ゲノムおよびゲノム的機構の両方を通じて、フェロトーシスおよびAKIから身体を防御している。