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生殖生物学
ハエにも欲求がある

Reproductive Biology
Even Flies Have Cravings

Editor's Choice

Sci. Signal., 15 June 2010
Vol. 3, Issue 126, p. ec178
[DOI: 10.1126/scisignal.3126ec178]

Nancy R. Gough

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

交尾後の雌バエは、摂食の増大などのいくつかの行動変化を示す。これらの応答の多くは、雌バエが精液に存在するホルモンである性ペプチド(SP)を 欠損する雄と交尾すると消失する(Kubli参照)。2つのグループ(RibeiroおよびDicksonとVargasら)が、ショウジョウバエにおけ る食物嗜好の基礎となる機構について検討した。RibeiroおよびDicksonは、交尾後の雌バエがタンパク質枯渇期間以降に高酵母含有食を多く摂る が、処女雌バエにはこの傾向はないことを発見した(酵母はハエの主要タンパク質源)。雄も高糖質食から高酵母含有食への移行を示したが、雌よりも長い枯渇 期間が必要であった。Vargasらは、交尾後の雌は栄養枯渇がなくても雄や処女雌に比べて高酵母含有食を嗜好することを報告した。Ribeiroおよび Dicksonは、SP受容体(SPR)を欠損する交尾雌バエは枯渇後の食物嗜好の移行を示さず、生殖管感覚ニューロン内のSPR機能の回復によってこの 食物嗜好の異常が回復することを発見した。さらに、SP欠損雄と交尾した雌は食物嗜好の移行が低減したことから、SPおよび他のSPRリガンドがこの現象 に寄与することが示唆された。遺伝的に産卵欠損にした雌では交尾および枯渇後も酵母摂取量が増大し続け、産卵(およびそれに伴う要求増加による栄養状態の 変化)は食物嗜好の移行に必要ではなかった。
しかし、両グループともに、脳内のTOR(ラパマイシン標的タンパク質)およびS6K(リボソームS6キナーゼ)によって媒介される栄養素感知経路がハエ の食物嗜好において複雑な役割を果たすことを証明している。RibeiroおよびDicksonは、TOR経路抑制因子(Tsc1およびTsc2)の過剰 発現が雄において酵母含有食への移行を誘発することを報告した。Vargasらは、恒常的活性型dS6Kを過剰発現している処女雌では、野生型dS6Kま たはドミナント・ネガティブ変異体を発現している処女雌に比べて、酵母摂取量が増大することを発見した。これに対して、交尾後の雌バエは過剰発現する dS6Kのタイプとは無関係に、高酵母含有食に対する同様の嗜好性を示した。活性型dS6Kを有する処女バエはニューロンのセロトニン産生の増大を示し、 食物にセロトニン前駆物質を添加すると、処女雌の高酵母含有食の消費が増大した。このような作用は処女雌が恒常的活性型dS6Kを発現すると消失し、セロ トニンが増加しても交尾雌の摂食は変わらなかった。これら2つの報告から、処女バエの食物嗜好性はニューロンのTORおよびセロトニンシグナル伝達によっ て調節されるが、交尾後には他のシグナル、特にSPRによって媒介されるシグナルがこの過程よりも優先すると考えられる。

C. Ribeiro, B. J. Dickson, Sex peptide receptor and neuronal TOR/S6K signaling modulate nutrient balancing in Drosophila. Curr. Biol. 20, 1000-1005 (2010). [PubMed]

M. A. Vargas, N. Luo, A. Yamaguchi, P. Kapahi, A role for S6 kinase and serotonin in postmating dietary switch and balance of nutrients in D. melanogaster. Curr. Biol. 20, 1006-1011 (2010). [PubMed]

E. Kubli, Sexual behavior: Dietary food switch induced by sex. Curr. Biol. 20, R474-R476 (2010). [PubMed]

N. R. Gough, Even Flies Have Cravings. Sci. Signal. 3, ec178 (2010).

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2010年6月15日号

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