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神経科学
リン酸化がスイッチになる

Neuroscience
Phosphorylation Makes the Switch

Editor's Choice

Sci. Signal., 10 May 2011
Vol. 4, Issue 172, p. ec128
[DOI: 10.1126/scisignal.4172ec128]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

DISC1(disrupted in schizophrenia 1)をコードする遺伝子は、さまざまな精神疾患の感受性因子である。DISC1はキナーゼのGSK-3βと相互作用し、これを阻害することによって、大脳皮質の発達の初期段階に必要な過程であるβカテニンを介する遺伝子転写と増殖のWntによる活性化を可能にする。増殖性の前駆細胞は、細胞周期から外れて、大脳皮質の正しい部位に移動しなければならない。興味深いことに、DISC1はバルデー・ビードル症候群(BBS)1やBBS4などの中心体タンパク質にも結合する。BBS4は、ニューロン移動の促進に役割を果たすことが示唆されている。Ishizukaらは、リン酸化によって、DISC1の結合パートナーとの親和性が変化し、DISC1が皮質ニューロンにおいて増殖と移動を切り替えるスイッチの役割としての果たすことが可能になると仮定した。質量分析とin vitro解析によって、ヒトDISC1は、プロテインキナーゼA(PKA)またはキナーゼCDK5によってSer713(マウスDISC1における類似残基はSer710)でリン酸化されることが示唆された。Ser710でリン酸化されない型のマウスDISC1では、野生型DISC1と比べて、BBS1およびBBS4との相互作用が低下したのに対して、恒常的リン酸化を模倣した型では、相互作用の増加が認められた。皮質ニューロンにリン酸化を模倣するDISC1変異体をトランスフェクションすると、野生型またはリン酸化されない変異体をトランスフェクションした場合に比べて、BBS1の中心体への局在が亢進した。対照的に、トランスフェクションされた細胞またはマウス胚において、DISC1に対するRNA干渉(RNAi)により誘発したβカテニンの転写活性の低下は、野生型DISC1またはリン酸化されないDISC1変異体の発現によってレスキューされたが、リン酸化模倣変異体の発現ではレスキューされなかった。マウスの皮質において、前駆細胞が活発に増殖しているE14にはDISC1のSer710でのリン酸化の程度は低く、GSK-3βとの相互作用がもっとも顕著であったのに対して、有糸分裂後ニューロンが移動しつつあるE18では、DISC1のリン酸化が顕著で、GSK-3βとの会合の程度は低く、BBS1との相互作用は増大していた。この結果と合うように、DISC1に対するRNAiによって引き起こされたE14胚における増殖の欠損は、リン酸化されないDISC1の変異体の発現によってレスキューされたのに対して、E18胚におけるDISC1 RNAiによって誘発されたニューロン移動の遅延は、リン酸化模倣DISC1変異体の発現によってレスキューされた。さらに、BBS1欠損マウス、あるいはドミナントネガティブ型のCDK5を発現するマウスでも、ニューロン移動の欠損が見られ、後者のマウスの欠損はリン酸化模倣型のDSC1によってのみレスキューされた。このように、発達上の特定のタイミングで起こるリン酸化事象が、DISC1のGSK-3βとの結合を低下させて増殖を弱め、ニューロン移動に関与する中心体タンパク質への動員を可能にすると考えられる。

K. Ishizuka, A. Kamiya, E. C. Oh, H. Kanki, S. Seshadri, J. F. Robinson, H. Murdoch, A. J. Dunlop, K.-i. Kubo, K. Furukori, B. Huang, M. Zeledon, A. Hayashi-Takagi, H. Okano, K. Nakajima, M. D. Houslay, N. Katsanis, A. Sawa, DISC1-dependent switch from progenitor proliferation to migration in the developing cortex. Nature 473, 92-96 (2011). [PubMed]

W. Wong, Phosphorylation Makes the Switch. Sci. Signal. 4, ec128 (2011).

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2011年5月10日号

Editor's Choice

神経科学
リン酸化がスイッチになる

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