BADな代謝の選択

Neuroscience
A BAD Metabolic Choice

Editor's Choice

Sci. Signal., 29 May 2012
Vol. 5, Issue 226, p. ec148
[DOI: 10.1126/scisignal.2003260]

Wei Wong

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

A. Giménez-Cassina, J. R. Martínez-François, J. K. Fisher, B. Szlyk, K. Polak, J. Wiwczar, G. R. Tanner, A. Lutas, G. Yellen, N. N. Danial, BAD-dependent regulation of fuel metabolism and KATP channel activity confers resistance to epileptic seizures. Neuron 74, 719-730 (2012). [Online Journal]

E. Ziviani, L. Scorrano, In epilepsy, BAD is not really bad. Neuron 74, 600-602 (2012). [Online Journal]

BAD(細胞死のBCL-2関連アゴニスト)は、アポトーシス促進における役割に加えて、肝細胞とβ細胞におけるグルコース代謝に不可欠であり、この役割にはBADのSer155のリン酸化が必要である(Ziviani and Scorrano参照)。グルコースはニューロンが消費する主燃料であるので、Giménez-Cassinaらはニューロンの代謝におけるBADの役割について調べた。Bad-/-マウス、またはリン酸化されないBADをコードするノックイン対立遺伝子をもつマウス由来の皮質ニューロンとアストロサイトを初代培養したところ、これらは野生型マウスに比べて、ミトコンドリアの基礎および最高酸素消費率の低下(グルコース利用能が低いことを示唆する)、およびケトン体であるβ-D-ヒドロキシ酪酸の消費の増大が示された。ケトン食は高脂肪で低炭水化物の食事であり、身体がグルコースの代わりに脂肪を燃焼するようにし、肝臓がグルコースの代わりにケトン体を放出するようにさせ、脳内ではグルコースの代わりにケトン体の利用を促進する。この食事は、薬物治療抵抗性のてんかんの制御に役立つ可能性があることから、著者らはBad-/-マウスとBadS155Aマウスはてんかん発作から保護されるのではないかという仮説を立てた。痙攣薬であるカイニン酸を投与された野生型マウスの多くは、持続的または長期的に最も重症な発作(強直間代性、脳全体が関係する)を示した(てんかん重積として知られる)。対照的に、Bad-/-マウスおよびBadS155Aマウスの発作は比較的軽度で、てんかん重積には至らなかった。KATPチャネルは、内向き整流性Kir6.2カリウムチャネルと調節性Sur(スルホニル尿素受容体)サブユニットから構成され、その活性化によってニューロンの興奮性が低下する。KATPチャネルの開口確率は野生型ニューロンに比べてBad-/-ニューロンで高いことから、KATPチャネル活性の亢進がBad-/-マウスにおける発作抵抗性に関与することが示唆された。実際に、BADとKir6.2の両方を欠損するマウスは、野生型マウスと同じカイニン酸誘発性てんかんへの感受性を示した。このように、BADのSer155のリン酸化を妨げることによって、ニューロンはその主要燃料源としてグルコースの代わりにケトン体を使用することになり、これがKATPチャネル活性の亢進を介するてんかん発作への抵抗性に寄与している。

W. Wong, A BAD Metabolic Choice. Sci. Signal. 5, ec148 (2012).

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2012年5月29日号

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