がん
重複する治療耐性

Cancer
Redundantly Resistant to Therapy

Editor's Choice

Sci. Signal., 31 July 2012
Vol. 5, Issue 235, p. ec199
[DOI: 10.1126/scisignal.2003448]

Ernesto Andrianantoandro

Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA

R. Straussman, T. Morikawa, K. Shee, M. Barzily-Rokni, Z. R. Qian, J. Du, A. Davis, M. M. Mongare, J. Gould, D. T. Frederick, Z. A. Cooper, P. B. Chapman, D. B. Solit, A. Ribas, R. S. Lo, K. T. Flaherty, S. Ogino, J. A. Wargo, T. R. Golub, Tumour micro-environment elicits innate resistance to RAF inhibitors through HGF secretion. Nature 487, 500-504 (2012). [PubMed]

T. R. Wilson, J. Fridlyand, Y. Yan, E. Penuel, L. Burton, E. Chan, J. Peng, E. Lin, Y. Wang, J. Sosman, A. Ribas, J. Li, J. Moffat, D. P. Sutherlin, H. Koeppen, M. Merchant, R. Neve, J. Settleman, Widespread potential for growth-factor-driven resistance to anticancer kinase inhibitors. Nature 487, 505-509 (2012). [PubMed]

RAF(rapidly accelerated fibrosarcoma)ファミリーキナーゼのBRAFなどのがん原性タンパク質を標的とする薬物は、しばしば部分的な腫瘍退縮を惹起するのみであり、再発することが多い。腫瘍内の間質細胞または免疫細胞によって分泌される因子が薬剤耐性に寄与するかもしれない。Straussmanらは、がん細胞株と間質細胞株の共培養ががん細胞の薬剤耐性に影響を及ぼすかどうかについて検討した。35種類の抗がん剤の存在または非存在下で、単独または23種類のヒト間質細胞株と共培養した蛍光標識ヒトがん細胞株45種類の増殖について、ハイスループット顕微鏡法を用いて検討した。6種類の線維芽細胞株のうちの1つと共培養すると、構造的に活性なBRAF(V600E)を有する複数のメラノーマ細胞株が増殖し、RAF阻害薬PLX4720に対する耐性を示した。メラノーマ細胞株を線維芽細胞の培養上清に曝露した場合にも耐性を示したことから、分泌された可溶性因子の寄与が示唆された。567種類の分泌因子の抗体アレイベース解析によって、PLX4720耐性との間にもっとも良い相関がある因子として受容体型チロシンキナーゼ(RTK)METのアクチベーターである肝細胞増殖因子(HGF)が同定された。組換えHGFは薬剤耐性を誘発するのに対して、HGF中和抗体またはMET阻害薬は耐性に拮抗した。HGFは、RAF阻害薬だけでなくマイトジェン活性化キナーゼ(MAPK)キナーゼ(MEK)阻害薬に対する耐性もメラノーマ細胞株に付与した。BRAF(V600E)メラノーマ患者の生検試料に関して、RAF阻害薬、MEK阻害薬、または両阻害薬投与前の腫瘍関連間質細胞中のHGF量について免疫組織化学法で解析したところ、間質細胞内のHGF量が多い患者はいずれの阻害薬治療に対しても応答不良であるという相関が見られた。Wilsonらは付随する論文において、BRAF変異メラノーマ細胞株について同様の結果を報告し、BRAF変異メラノーマ患者において、血漿中HGF濃度と阻害薬治療応答性に負の相関があることを明らかにした。Straussmanら、およびWilsonらは、いずれもがん細胞のHGF処理によってMEK経路エフェクターのERKだけでなく、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)経路エフェクターのAKTもリン酸化されることを示した。Straussmanらは、MEKとAKTの両方の阻害はメラノーマ細胞株の増殖抑制に有効であり、RAF阻害薬とMET阻害薬の併用には相乗作用があり、MAPKおよびPI3K経路の活性化を有意に抑制することを明らかにした。これら2つの研究から、1つの増殖促進経路における1つのキナーゼを阻害する薬物に対する腫瘍の耐性は、腫瘍受容体を活性化して代替増殖経路を刺激する間質シグナルに起因する可能性が示唆される。

E. Andrianantoandro, Redundantly Resistant to Therapy. Sci. Signal. 5, ec199 (2012).

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