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幹細胞
炎症が幹細胞を老化させる
Stem Cells
Inflammation Ages Stem Cells
Sci. Signal., 9 October 2012
Vol. 5, Issue 245, p. ec259
[DOI: 10.1126/scisignal.2003672]
Annalisa M. VanHook
Science Signaling, AAAS, Washington, DC 20005, USA
J. Doles, M. Storer, L. Cozzuto, G. Roma, W. M. Keyes, Age-associated inflammation inhibits epidermal stem cell function. Genes Dev. 26, 2144-2153 (2012). [Abstract] [Full Text]
皮膚の外見、機能、治癒力にみられる老化関連の顕著な変化は、表皮幹細胞の変化が原因であると仮定されている。Dolesらは、緑色蛍光タンパク質で標識されたケラチン15レポーター(Krt-15-GFP)をもつトランスジェニックマウスを用いて、Krt-15-GFP陽性(GFP+)毛包幹細胞の数が加齢に伴って増加することを見出した。しかし、皮脂腺機能、毛嚢周期、創傷治癒に寄与するこれらの幹細胞の増殖能力は、加齢に伴って低下した。これらのGFP+幹細胞は、in vitroにおいて、若年マウスから単離された場合のほうが、老化マウスから単離された場合よりも高いコロニー形成能力を示した。電離放射線、または表皮過剰増殖を誘導する化学薬品による外用治療に曝露すると、若年マウスのGFP+細胞集団の拡大が起こったが、老化マウスのGFP+幹細胞の数に影響ない(放射線)か、減少する(化学薬品)場合さえもあった。GFP+細胞のトランスクリプトーム解析によって、炎症に関連するJanusキナーゼ-シグナル伝達転写活性化因子(Janus kinase signal transducer and activator of transcription:JAK-STAT)のシグナル伝達を制限するためのネガティブフィードバックループに関与するサイトカインシグナル抑制因子1(suppressor of cytokine signaling 1、Socs1)およびSocs2の老化マウス由来幹細胞における発現増大など、JAK-STATシグナル伝達経路の関連遺伝子の発現にみられる老化関連の変化が明らかになった。老化マウスの表皮では、若年マウスの表皮に比べて、多くの炎症性サイトカインの存在量が増加しており、リン酸化された(活性化された)Stat3の存在量も増加しており、表皮幹細胞における炎症性シグナル伝達の亢進と一致していた。このようなサイトカインのうちの2つ(IL-1α、ICAM-1)は、若年マウス由来の培養ケラチノサイトの増殖を抑制した。3つのJAK阻害薬(ピリドン6、ルクソリチニブ、トファシチニブ)のうちのいずれで処理した場合も、老化マウスから単離された表皮幹細胞のコロニー形成能力の低下は回復されたが、この回復は細胞をin vitroで増殖させると消失した。in vivoでは、ピリドン6を局所投与すると、老化した表皮の毛嚢周期は刺激されたが、Krt-15-GFP+幹細胞プールが枯渇した。これらの結果は、炎症環境における老化に関連する変化が、毛嚢周期の低下や創傷治癒の悪化などの皮膚における老化に関連する表現型変化の原因になっている可能性を意味し、他の状況でも、炎症が幹細胞の老化に関与している可能性を示唆している。
A. M. VanHook, Inflammation Ages Stem Cells. Sci. Signal. 5, ec259 (2012).