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先天性無痛患者におけるTrkA変異の構造解析から、鎮痛薬の標的としてのPLCγが明らかに
Structural analysis of TrkA mutations in patients with congenital insensitivity to pain reveals PLCγ as an analgesic drug target
SCIENCE SIGNALING
26 Apr 2022 Vol 15, Issue 731
DOI: 10.1126/scisignal.abm6046
Beatriz C. Moraes1,†, Helder V. Ribeiro-Filho2,†, Allan P. Roldäo1,†, Elaine F. Toniolo3, Gustavo P. B. Carretero1, Germán G. Sgro1,4, Fernanda A. H. Batista2, Damian E. Berardi1, Victoria R. S. Oliveira3, Rebeka Tomasin1, Felipe M. Vieceli1, Dimitrius T. Pramio1, Alexandre B. Cardoso1, Ana C. M. Figueira2, Shaker C. Farah1, Lakshmi A. Devi5, Camila S. Dale3, Paulo S. L. de Oliveira2, Deborah Schechtman1,*
- 1 Department of Biochemistry, Chemistry Institute, University of Säo Paulo, SP 05508-000, Brazil.
- 2 Brazilian Center for Research in Energy and Materials (CNPEM), Brazilian Biosciences National Laboratory (LNBio) Campinas, SP 13083-100, Brazil.
- 3 Laboratory of Neuromodulation of Experimental Pain (LaNed), Department of Anatomy, Institute of Biomedical Sciences, University of Sao Paulo, SP 05508-000, Brazil.
- 4 Department of Biomolecular Sciences, School of Pharmaceutical Sciences of Ribeiräo Preto, University of Säo Paulo, Ribeiräo Preto, SP 14040903, Brazil.
- 5 Department of Pharmacological Sciences, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY 10029, USA.
* Corresponding author. Email: deborah@iq.usp.br
† These authors contributed equally to this work.
変異を追って痛みを緩和する
神経成長因子受容体TrkAは疼痛軽減のための魅力的な標的である。とはいえTrkAはその他にも、ニューロンの機能と生存に重要なシグナル伝達経路を媒介している。その疼痛媒介経路内での標的を具体的に明らかにするため、Moraesらは、CIPAと呼ばれる疼痛強度障害を引き起こすTrkA変異の構造的影響を検討した。その結果、TrkAとその下流エフェクターの1つであるPLCγの相互作用を阻害する変異を明らかにし、培養細胞においてこの相互作用を同様に阻害するペプチドを設計した。このペプチドをマウスに投与すると有痛性炎症に対する感受性が低下したことから、その他のCIPA関連変異のさらなる解析を行うことで、疼痛軽減のための新たな標的を確認できるかもしれないことが示唆された。
要約
慢性痛は重大な健康問題であり、オピオイド薬には中毒性と望ましくない副作用があることから、新たな鎮痛薬の探索がますます重要になっている。新たな薬物標的候補を調べるため、われわれは先天性無痛無汗症(CIPA)患者に認められるNTRK1遺伝子の変異を検討した。NTRK1遺伝子は、神経成長因子(NGF)受容体であり侵害受容に寄与するトロポミオシン受容体キナーゼA(TrkA)をコードしている。分子モデリングおよび生化学的解析から、TrkAと、その基質の1つでありシグナル伝達エフェクターでもあるホスホリパーゼCγ(PLCγ)との相互作用を低下させる変異を同定した。さらにわれわれは、PLCγのSrc相同ドメイン2(SH2)に結合しているTrkAに由来する、細胞透過性リン酸化ペプチド(TAT-pQYP)を開発した。HEK-293T細胞においてTAT-pQYPは、異種発現したTrkAとPLCγの結合を阻害し、NGF誘導性のTrkAを介したPLCγの活性化およびシグナル伝達を低下させた。炎症性疼痛マウスモデルにTAT-pQYPを足底内注射すると力学的感受性が低下し、この相互作用を標的とすることで鎮痛が得られる可能性が示唆された。これらの知見は、CIPAにおいて障害されているシグナル伝達経路の解析によって疼痛緩和の新たな標的を同定するという戦略を実証している。