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コレステロール誘導体はヒトβ2アドレナリン作動性受容体を温度によって非線形に安定化する
A cholesterol analog stabilizes the human β2-adrenergic receptor nonlinearly with temperature
SCIENCE SIGNALING
7 Jun 2022 Vol 15,Issue 737
DOI: 10.1126/scisignal.abi7031
Tetiana Serdiuk1,2, Moutusi Manna3, Cheng Zhang4,5, Stefania A. Mari1, Waldemar Kulig6, Kristyna Pluhackova1,7, Brian K. Kobilka4, Ilpo Vattulainen6,8, Daniel J. Müller1,*
- 1 Department of Biosystems Science and Engineering, ETH Zurich, CH-4058 Basel, Switzerland.
- 2 Department of Biology, Institute of Molecular Systems Biology, ETH Zurich, CH-8093 Zurich, Switzerland.
- 3 Applied Phycology and Biotechnology Division, CSIR-Central Salt and Marine Chemicals Research Institute, Bhavnagar 364002, Gujarat, India.
- 4 Department of Cellular Physiology and Medicine, Stanford University School of Medicine, Palo Alto, CA 94305, USA.
- 5 Department of Pharmacology and Chemical Biology, School of Medicine, University of Pittsburgh, Pittsburgh, PA 15261, USA.
- 6 Department of Physics, University of Helsinki, P. O. Box 64, FI-00014 Helsinki, Finland.
- 7 Cluster of Excellence SimTech, Stuttgart Center for Simulation Science, University of Stuttgart, D-70569 Stuttgart, Germany.
- 8 Computational Physics Laboratory, Tampere University, P. O. Box 692, FI-33014 Tampere, Finland.
* Corresponding author. Email: daniel.mueller@bsse.ethz.ch
コレステロールが受容体を安定化する
細胞膜では、β2アドレナリン作動性受容体(β2AR)などのGタンパク質共役受容体(GPCR)がコレステロールと混在し、それがGPCRの会合と安定化を調節している。コレステロールがGPCRに及ぼす影響についてのこれまでの研究が常温で実施されていたことをふまえ、Serdiukらは、原子間力顕微鏡(AFM)に基づく単一分子力分光法(SMFS)と分子動力学シミュレーションを用いて、25℃、37℃、42℃でコレステロール誘導体CHSがβ2ARの力学的特性とエネルギー特性に及ぼす作用を調べた。著者らは、リポソーム内にCHSが存在すると、25℃、42℃ではその作用は最小限であったが、37℃ではβ2ARの基礎活性に重要である立体構造のサブセットを安定化させることを明らかにした。これらの結果は、コレステロールとGPCRの相互作用が受容体の構造と機能に及ぼす影響は生理的温度で最適になることを示している。
要約
細胞膜では、Gタンパク質共役受容体(GPCR)はコレステロールと相互作用し、それによってGPCRの会合、安定性、立体構造が調節されている。これまでの研究では、常温でコレステロールがGPCRの構造的特性を調節する様子が明らかにされてきた。本稿で室温(25℃)、生理的温度(37℃)、高温(42℃)において、コレステロール誘導体のコレステリルヘミコハク酸(CHS)の存在下および非存在下の場合のヒトβ2アドレナリン作動性受容体(β2AR)の力学的特性、動態学的特性、エネルギー特性を評価した。その結果、CHSがβ2ARのさまざまな構造領域を差次的に安定化し、それが温度によって非線形に変化することがわかった。そして、受容体のシグナル伝達にとって重要な構造領域への作用が最も強いことが観察された。さらに、37℃では、CHSが立体構造的に準安定状態のβ2ARを増加させ、安定化させることによって、基礎活性を引き出していたが、25℃、42°CではCHSによるそのような作用はみとめられなかった。これらの知見は、このGPCRの構造的特性と機能的特性の調節において、CHSの非線形な温度依存性の作用が37℃で最適化されることを示している。