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複数のがんが複数のMAPK経路阻害薬を回避し、DNA複製ストレスシグナル伝達を利用して異常な細胞周期に耐える

Multiple cancers escape from multiple MAPK pathway inhibitors and use DNA replication stress signaling to tolerate aberrant cell cycles

Research Article

SCIENCE SIGNALING
1 Aug 2023 Vol 16, Issue 796
[DOI: 10.1126/scisignal.ade8744]

Timothy E. Hoffman1, Varuna Nangia1, 2, C. Ryland Ill1, Victor J. Passanisi1, Claire Armstrong1,
Chen Yang1, 3, Sabrina L. Spencer1, *

  1. 1 Department of Biochemistry and Biofrontiers Institute, University of Colorado Boulder, Boulder, CO 80303, USA.
  2. 2 Medical Scientist Training Program, University of Colorado-Anschutz Medical School, Aurora, CO 80045, USA.
  3. 3 Molecular Cellular and Developmental Biology, University of Colorado Boulder, Boulder, CO 80303, USA.

* Corresponding author. Email: sabrina.spencer@colorado.edu

Editor's summary

MAPKシグナル伝達に起因するがんを有する患者では、有効な標的阻害薬による治療にもかかわらず、腫瘍細胞のサブセットは生きながらえる。一部の腫瘍は、変異を保有又は発生したり、薬剤耐性を媒介するシグナル伝達を回避したりしているが、その他の腫瘍はそのようなドライバーをもっていない。Hoffmanらは、腫瘍のMAPK経路阻害薬耐性の共通の機構を明らかにした。肺、結腸および皮膚がん細胞株のうち薬物治療下で初めは休眠して次に再度細胞周期に入る細胞は、ファンコニ貧血経路の構成要素に依存して、薬剤存在下でサイクリングにより引き起こされるDNA複製ストレスに耐えていた。臨床検体から、このような治療誘導性の再発腫瘍における複製ストレス耐性という現象が裏付けられ、これが患者において標的とすべき特徴である可能性が示唆された。—Leslie K. Ferrarelli

要約

多くのがんは、増殖促進性のマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)経路の変異を保有している。BRAF阻害薬で処理されたBRAF誘導性メラノーマ細胞は、そのサブセットが適応という非遺伝的方法で薬物誘導性の休眠状態を逃れ、遅い増殖を再開する。本稿でわれわれは、この現象が、複数の臨床的に承認されたMAPK経路阻害薬に応答するEGFR、KRASまたはBRAF変異に誘導される多くのがん種に共通であることを見いだした。様々ながん細胞株の二次元培養モデルおよび三次元スフェロイドモデルにおいて、細胞のサブセットは4日以内に薬物誘導性の休眠状態を逃れ、増殖を再開した。これらの「逃亡者」細胞には、DNA複製の欠損とDNA損傷の蓄積が認められ、ataxia telangiectasia and RAD3-related(ATR)キナーゼに依存するストレス応答が増大していた。さらにわれわれは、「逃亡者」細胞ではファンコニ貧血(FA)DNA修復経路の構成要素が分裂期DNA合成(MiDAS)部位に集合し、細胞分裂の適切な完了を可能にしていることを明らかにした。患者の腫瘍検体および臨床データの解析から、疾患の進行とDNA複製ストレス応答因子の増加とが関連付けられた。これらの知見は、MAPK経路変異を有する多くのがんが、薬物作用から速やかに逃れ、しかも早期のストレス耐性経路の抑制により、MAPK経路阻害薬に対するより持続的な臨床反応を達成する可能性を示唆している。

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