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- MAPKおよびmTORC1シグナル伝達は収束してサイクリンD1タンパク質の産生を駆動することによってメラノーマのパーシスター(残存)細胞における細胞周期の再開を可能にしている
MAPKおよびmTORC1シグナル伝達は収束してサイクリンD1タンパク質の産生を駆動することによってメラノーマのパーシスター(残存)細胞における細胞周期の再開を可能にしている
MAPK and mTORC1 signaling converge to drive cyclin D1 protein production to enable cell cycle reentry in melanoma persister cells
SCIENCE SIGNALING
2 Sep 2025 Vol 18, Issue 902
DOI: 10.1126/scisignal.adw3231
Varuna Nangia1, 2, Humza Ashraf1, †, Nasreen Marikar1, Victor J. Passanisi1, Christopher R. Ill1, Sabrina L. Spencer1, *
- 1 Department of Biochemistry and BioFrontiers Institute, University of Colorado Boulder, Boulder, CO 80303, USA.
- 2 Medical Scientist Training Program, University of Colorado Anschutz Medical School, Aurora, CO 80045, USA.
- * Corresponding author. Email: sabrina.spencer@colorado.edu
- † Present address: Department of Quantitative Health Sciences, Mayo Clinic, Rochester, MN 55905, USA.
Editor's summary
腫瘍細胞は、薬剤誘導性の静止状態を回避し、細胞周期を再開し、薬剤耐性を持続した状態でゆっくり増殖して、治療の成功を損なわせることがある。Nangiaらは、単一細胞を追跡する手法を用いて、培養BRAF変異メラノーマ(黒色腫)細胞においてmTORC1を介した細胞周期タンパク質サイクリンD1の増加が標準的なBRAF阻害薬およびMEK阻害薬からの回避を促進することを明らかにした。メラノーマ細胞内のサイクリンD1を減少させる、またはメラノーマ細胞と肺がん細胞においてmTORC1シグナル伝達を遮断すると、培養中に薬剤負荷下で細胞周期を持続する細胞の割合が減少した。このように、mTORC1シグナル伝達は薬剤に誘導された静止期細胞の細胞周期の再開を可能にし、それによって長期的な薬剤の有効性を損なわせている可能性がある。—Leslie K. Ferrarelli
要約
キナーゼBRAFおよびMEKの阻害薬で処理されたBRAF変異メラノーマ細胞では、一部の細胞サブセットが急速かつ非遺伝学的に適応し、薬剤誘導性の静止状態を回避して細胞周期を再開する。本稿でわれわれは、タイムラプス撮影データから単一細胞の系譜を計算的に再構築し、動的なシグナル伝達経路を別個の細胞周期の運命づけ結果と関連づけることによって、この薬剤耐性獲得機構を調べた。そして、回避を駆動するにはMEKの基質であるERKの活性化が必要条件であるが十分条件ではないこと、さらには、細胞周期の再開を運命づけられた薬剤処理細胞において細胞増殖とタンパク質合成を促進するにはタンパク質複合体mTORC1の活性も必要であることを明らかにした。ERKおよびmTORC1シグナル伝達は収束し、薬剤負荷下で細胞周期を遂行するうえで決定的な制約条件となるサイクリンD1タンパク質の量を増加させた。CRISPRを用いて内在性サイクリンD1を蛍光標識した細胞では、薬物処理を回避した細胞サブセットにおいて、細胞周期再開の少なくとも15時間前にはサイクリンD1の顕著な蓄積がみられ、その後の薬剤回避の早期予測が可能であった。このように、サイクリンD1は、メラノーマの薬剤回避を抑制するための早期バイオマーカーでもあり、治療標的候補でもある。われわれは肺がん細胞でも、同様のmTORC1に駆動される回避機構を観察したが、大腸がん細胞では観察されなかったことから、がんの種類を横断した一般化は部分的にしかできないことが浮き彫りになった。