PKMζと記憶の維持の遺伝学

The genetics of PKMζ and memory maintenance

Reviews

Sci. Signal. 14 Nov 2017:
Vol. 10, Issue 505, eaao2327
DOI: 10.1126/scisignal.aao2327

Todd Charlton Sacktor1,* and Johannes W. Hell2,*

1 Departments of Physiology & Pharmacology, Anesthesiology, and Neurology, Robert F. Furchgott Center for Neural and Behavioral Science, State University of New York Downstate Medical Center, Brooklyn, NY 11203, USA.
2 Department of Pharmacology, University of California, Davis, Davis, CA 95615, USA.

* Corresponding author. Email: tsacktor@downstate.edu (T.C.S.); jwhell@ucdavis.edu (J.W.H.)

要約
長期記憶を維持する分子機構の解明は、神経科学の基本的な目標である。蓄積されつつあるエビデンスから、非定型プロテインキナーゼC(PKC)アイソフォームであるプロテインキナーゼMζ(PKMζ)による持続的なシグナル伝達は、シナプスの長期増強(LTP)と長期記憶を維持している可能性が示唆されている。しかし、正常なLTPと長期記憶を示すPKMζノックアウトマウスから得られた遺伝的データからは、PKMζの役割に疑問が投げかけられていた。さらに、PKMζ阻害ペプチドであるζ阻害ペプチド(ZIP)は、野生型とノックアウトマウスの両方でLTPを阻止し、記憶を消去した。その他のイソフォーム特異的な遺伝的アプローチを用いた4論文からのデータは、このような相反する所見を一致させるのに役立った。第一に、PKMζ-アンチセンスのアプローチにより、PKMζ-ノックアウトマウスにおけるLTPと長期記憶は、別のZIP感受性非定型アイソフォームであるPKCι/λに依存した代償機構を介して行われることが明らかになった。第二に、代償を誘導することなく個々の非定型アイソフォーム量を減少させる低分子ヘアピン型RNAは、様々な時間相で記憶を阻害した。PKCι/λのノックダウンは短期記憶を乱し、一方でPKMζのノックダウンは長期記憶を特異的に消去した。第三に、条件付きのPKCι/λノックアウトは、PKMζを迅速に活性化することで代償を誘導し、短期記憶を維持した。第四に、モデル系としてアメフラシ(Aplysia)を用いたドミナントネガティブアプローチから、複数のPMCがPMKを形成して、様々な種類の長期的なシナプス促通を持続し、非定型PKMがLTPと類似したシナプス可塑性を維持することが明らかになった。このように、生理条件下ではPKMζが、LTPと長期記憶を維持する主要なPKCアイソフォームである。PKCι/λはPKMζを補償できること、また、その他のアイソフォームがシナプス促通を維持できるだろうことから、PKMζが機能不全となった場合にはたらく、記憶維持の代償機構の階層の存在が考えられる。

Citation: T. C. Sacktor, J. W. Hell, The genetics of PKMz and memory maintenance. Sci. Signal. 10, eaao2327 (2017)

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